第5話 目玉焼きでさえも手を抜かない
俺は、やっとの思いでキッチンがある砂浜のベースに戻ってきた。
とりあえず、砂浜に倒れ込む。
「ふあぁー」
倒れ込んだ瞬間、俺の手元に卵があるという事実を思い出した。
ああっ!卵っ!
俺は咄嗟にたったひとつの卵を守るため、空中でクルッと身体を回して地面に背を向けた。
強い衝撃と共に俺は砂浜に叩きつけられた。
「いってぇっ!」
倒れ込んだだけなのにこんな事になるなんて……
かろうじて、俺は卵を守り抜くことが出来た。
もしも、割れていたらと考えると冷や汗がタラタラと流れてくる。
九死に一生を得たな……
閉話休題。
俺は、限りなく重くなった身体を一生懸命持ち上げて起き上がった。
さてと、疲れているけども…この卵でクッキングでもするとしよう。
キッチンの前に立った俺は、張り切って腕をまくる。
はあぁ……まさか、無人島で料理を作る日が来るなんて…。
不思議な状況に困惑しながらも、俺は料理を初めていった。
あ、そう言えばこのキッチンの水道って水出るのかな?
出るわけないか……
と、おもいながら俺は水道の蛇口を捻った。
すると、ちょぼちょぼと水が流れてきた。
「ええっ!?」
こんな無人島に水道が通っているはずなんてないのにも関わらず、水が出てきたのだ。
「どうなってんだ?……これ…」
俺は首を傾げた。
本当になんか凄いマジックを見たような気分だ。
先程から、この島にいると簡単に常識を壊されてしまう。
全く、なんなんだこの島。
さてと、無限に湧いて出てくる疑問はとりあえずそこら辺に置いておいて、早速調理を始めることにしよう。
まず、手始めになにをすればいいかな……
何度も言うが、俺が作るのは目玉焼きだ。
ノーマルに目玉焼きを作るだけであれば、そこまで苦労しないが、あくまでもここは無人島である。
無人島であるので、必然的に使えるアクションが限られてしまう。
例えば、ここには料理に肝心の調味料はないのだ。
素材のみの味を楽しむという手もあるが、やはり、シェフという生き方を選んだ以上、料理に関する事で妥協はしたくない。
だから、俺は……
無人島で作る目玉焼きも最高に美味しいものにしてやるっ!!
そう元気よく意気込んだのはいいものの、果たして、まずは何から取り掛かればよいのだろうか。
頭をメトロノームのようにグワングワン左右に振って考えていると、なんとなーく目玉焼きの作り方が浮かんできた。
そうだ、塩で目玉焼きを作ろう!
俺が1番、目玉焼きに合うと思う調味料は醤油andマヨだが、ここは無人島。
当然ながら、そんなものあるはずがない。
では、何の調味料を使えば良いか……
そんなものもう答えは出ている。
目玉焼きに最高に合って、尚且つ、無人島で簡単に手に入るものと言えば、絶対に「塩」しか無いであろう。
思い立ったが吉日。
今すぐ、塩作りに取り掛かることにしよう。
神様が味方してくれているのか、なんなのかよく分からないが、俺の周りには幸運なことに「塩の元」となる海が広がっていた。
俺は何も考えずに、キッチンにしまってあった鍋だけ持って、海に向かって駆け出した。
そして、海水を汲む。
今日、はいているズボンはあいにく、長ズボンだったので大分濡れてしまった。
あ、そう言えば、気がつけばもう夜になってたなぁ……
ふと、目線を上げてみると満天の星空。
流石、無人島。
どこかの都会とは星の綺麗さが段違いだ。
そんな星の綺麗さにうっとりしながら、俺はキッチンまで海水が満杯まで入った鍋を持ってきた。
「よし、これで塩が作れるはず」
と、ここで問題発生。
塩を作り出すには火を使って、海水を蒸発させなければいけないのだが……
果たして、このキッチンのコンロ。
本当に火が着くのだろうか……。
つかないのであれば、俺は原始的な方法で火を起こさなければならなくなってしまう。
恐る恐るコンロのひねりを「カチッ」と回してみると、なんと火が着いたのだ。
「うわっまじ!?」
少し安心した。火を作り出すのに苦労しないで済むからだ。
これで気兼ねなく調理を進めることが出来る。
俺は海水入りの鍋をコンロにセットして、火に当てた。
それにしても、塩が完成するには時間がかかりそうだ。
なにしろ、あんな量の水を全て蒸発させなければいけないのだから。
うーん……先に目玉焼きを作っても、塩が出来上がらなくて冷めちゃうだけだし……
……休憩でもするか。
5時間後
やっと、鍋の中の水が全て蒸発してくれた。
なんて時間がかかるんだ…これ程までとは聞いてないぞ。
まぁ、でも見た感じ、しっかりと塩ができているみたい。
変に失敗しなくて良かった。
塩も出来たし、次はいよいよ目玉焼き本編を作ることにしよう。
三ツ星シェフの目玉焼きとやらを見せつけてやるよ。
第4話 〜fin〜
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