第4話 卵探し(2)

俺は持てるだけのポテンシャルを今に乗せて、思いっきり走った。


今の俺は文字通り『絶体絶命』だ。


なぜなら、今、俺は百獣の王と呼ばれているライオンに追いかけられているから。


「ヤバいって!!」


ライオンは躊躇なく俺を追いかけて来る。


当然、陸上選手でもなんでもない俺はどんどんライオンに距離を詰められていった。


喰われるっ……!


そう思った俺は衝動的に、その場にあった木に隠れた。


馬鹿か…俺っ!

そんな苦し紛れに隠れたからって、巻けるわけが無いだろ。相手はライオンだぞ……!


と、思っていたが案外、ライオンは俺が隠れた木を通り過ぎてどこかに行ってしまった。


かろうじて、振り切ったのだ。


「ふうぅ……寿命縮む」


俺は無意識に胸を撫で下ろしていた。


食材を探すということに目が行き過ぎて、無人島は危険だという基礎知識を忘れてたな……。


今後は、気を付けて進もう。


俺は息を切らしたまま、先にある【鳥類エリア】を目指した。







そして、ようやく地図上での【鳥類エリア】に到着した。


「うわぁぁ」


俺は思わず感嘆の音を上げていた。


俺の視界に映ったのは、地平線の先まで続く平野。


そして、その平野から見上げた空にはおびただしい数の鳥。


もちろん、陸にも沢山の鳥が群がっていた。


嘘……じゃなかったんだ……


本当に、この世の全食材が……この島に集まっているのかもしれない……。


確かに、小さな頃にうっすらと『世界中の食材がいっぺんに集まっている場所なんてないのかなぁ……』とか思っていたけど…


本当にあるだなんて。そう一瞬で思わせるくらい、素晴らしい光景だった。


俺は気がつくと、感動していた。


様々な色の鳥たちが平野中を飛び回って、幻想的な雰囲気を醸し出している。


こんな珍しい光景をお目にかかれるなんて……。


俺はエモーショナルな気分に酔いしれながら、平野の土地を踏み締めていった。


しばらく、歩いているとお目当ての「ニワトリ」を見つけた。


「あ、ニワトリ」


俺は急いでニワトリの方へと向かう。


赤いトサカを頭につけているニワトリは「コッコッ」と鳴きながら、平野を走り回っている。


よく見てみれば、ニワトリは1匹だけじゃないみたいで何匹ものニワトリが群れを成していた。


こんなにたくさんのニワトリがいるのであれば、卵もすぐに見つけられそうだ。


と、思ったけど現実はそう甘くないみたいで、どこを見渡してもなかなか卵が見つからない。


「あれぇ……?」


少し焦りを抱えながら俺は、ただひたすらに卵を探した。


だけど、見つかったのは何も入っていない空っぽのニワトリの巣のみ。


俺は不意に身体の力が抜けて、ヘロヘロと倒れた。


あくまでも、俺はシェフなのでそういつまでも体力が持つかと問われるとそんな訳はない。


むしろ、一般人より体力はないのかもしれない。


そんな俺にとって、長時間のフル稼働は相当こたえる。


あぁ…そう言えば喉がかわいたなぁ……


キッチンに確か水道があったはずだけど、あれはちゃんと水が出て来るのだろうか。


無人島にある水道なんて、使い物にならないか……


と、ここで1匹のニワトリが俺の前の巣にやって来た。


そして、その巣にゆっくりと腰を落とす。


あ……もしかして、卵産んでくれる!?


俺は先程までの倦怠感を感じさせないくらいの勢いで起き上がった。


よし、いいそ!そのままうんでくれっ!


なんとなく、両手を合わせて拝んでみる。


「産んでくれ……産んでくれ」


俺はお家に早く帰りたいし、こんな誰もいない無人島で野垂れ死にたくない。


だから、その為には卵がどうしても必要なんだ。


おねがいだから、産んでください。


という感じで拝んでいたが、ニワトリはいっこうに卵を産まない。


変に急かすのも悪影響だと思うけど、もうすぐで日が暮れそうだから、なるべく早くして欲しいものだ。


俺の視界は少しぼやけた。


もしかすると、俺の活動限界ももう、すぐそこまで差し迫って来ているのかもしれない。


俺は固唾を飲んで、ニワトリの産卵シーンを見守った。


今まで、生きてきた中でこんなにまじまじとニワトリの産卵シーンを見た経験はないなぁ……


それくらい、今の状況は特殊だということだろう。


兎にも角にも、早く産んで欲しいというのが本音だ。


ニワトリは急ぐ素振りも見せずにゆったりと巣の上に座っている。


早くしてくれ……。


と、その時ニワトリは突然、卵を産んだ。


「あっ!」


何も予告も前兆もない内に産んだのだ。


俺はすかさず、その卵を巣の中

から取り出した。少し、ニワトリには申し訳ないような……そんな気もするが、仕方がないということでまとめておこう。


「やったぁ……卵だ…」


俺は生まれて初めて卵を見て感動した。

これ以降、卵で感動することなんてありはしないだろう。


俺が卵を手に取った時には、太陽は地平線に沈んでいて、微かに残っていた残照さえももう、消えかかっていた。


つまり、日が暮れたのだ。


全く、目玉焼きを作るってだけなのにこんなにも苦労してしまうのか……


無人島恐るべしっ!




第3話 〜fin〜





























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