第3話 リールトン
人間界上空千メートルに魔王城は転移する。
「魔王城からでは実感が湧かないな。本当に人間界に来たのか?」
「ここは人間界ライトン地区辺境の上空です」
「知りたいんだが、エティアは人間界のどこにでもゲートを開けるのか?」
魔王は出来てくれと、祈るように聞いてみる。
「出来ます。でも魔王城ごととなると一日一回が限界です」
「じゃあ、ここから一番近い都市部周辺にゲートを頼む」
ぐー
横でこんな音をずっと聞いてられない。
「分かりました。ライトン地区一番の都市リールトン付近にゲートを出しますね」
「頼む」
人間界について知らない魔王はエティアを頼るしかないのだ。
その前に。
「この角をどうするか、だな」
「そうですね。人間界にこの状態で行けば勇者にやられますね。どうしましょう」
「うーん」
自分では見えない角に手探りで触れる。そして押したり、引っ張ったりをしてみる。
あっ
「取れたっ」
「取れましたね」
エティアも角に手を伸ばす。
あっ
「取れました」
「取れたな。……えっーー、えっーー!」
腕を前後にジェスチャーしながら驚く!
「んっ、んっ!」
気を取り直して。
「エティア。ゲートをリールトンに繋げてくれ」
「はい!」
◇
人間界、ライトン地区都市部リールトンに降り立つ。
「ここが人間界?」
街の全体から目が離せない。魔王軍の敵だというのにもっと知りたいと思ってしまったのだ。
「リールトンです」
街からは百メートル離れたところから街を見る。
石造の建物が多く、離れた場所からも分かるほどの大きさの建物は王様でも住んでいるのだろうか。
なぜだか分からない。だか、この景色を綺麗だと思ってしまったのだ。
「パパ、早く食べたい」
「あ、あー。分かった。行こう」
五つある心臓は全て体の外に出てきそうなほどに動き回るのを感じる。
緊張……しているのか?まさか俺が?
人間界に恐怖しているのか。それともこれから起こることにワクワクしているのか。
「魔王様? どうかされましたか?」
「いや、どうってことはない」
返答を間違えてるような気がするが今は気にせずに行こう。
ちょっと待てよ。
「せっ、設定を考えないか?」
「え? どういうことですか? 魔王様」
「俺たちは人間になるんだ。旅人ということにしよう」
「いりますかね?」
「当然だ。俺たちはこの街のことをなにも知らない。怪しまれて魔王だってバレたら終わりだ。慢心は良くない。そうだろ」
「はっ!魔王様のおっしゃる通りです。私、魔王様の側近失格ですね。申し訳ありません」
「いや、そんな謝ることではない。設定の重要さが分かってくれれば良いんだ」
設定の重要さってなんだよ。ただ、人間で旅人ってだけだよね。
魔王は自分が言ったことを真摯に受け止めてしまったエティアを見て、少し恥ずかしさが湧いていたのだ。
慎重に歩を進める一行。
人間のように「疲れた」と駄々をこねる子供に一番偉いというのに心臓が飛び出そうな魔王になぜか堂々としているエティア。
近づくにつれ、人間の存在を確認し始める。
「なんだい?あんたたち、なにものだ?」
体をビクッとさせながら魔王は後ろを向く。
なんだ。商人のオヤジか。
顔にはシワが重なったおじいさんが馬の上から話しかけてくる。
「そっ、そうなんですよ」
「そうです。私たち人間で旅人なんです」
おい!何言ってんだ、エティア。
「はっはっ、変なことを言うもんだなー」
良かった。気にしてないみたいで。
「はっ、はっ、そうでしょ。はっはっ」
なんか嫌だな。こんな魔王。
自分でもそう思うほどに威厳がない。
「でも、家族で旅か。いいなぁ!うちの嫁さんとは昔、旅したもんさ。子供ができてからはしなくなっちまったがな。おっとすまない、まだ仕事があるんだった。また、機会があったらな」
昔でも思い出して話しかけてしまったのだろうか。と魔王は考える。
「いくぞ」
と馬に鞭を打ち、去り際に手を振る。
家族ではないんだがな。
「じいさんのくせに去り方はかっこいいな」
「設定、うまくいきましたね。やはり魔王様はすごいですね。最初に決めてなければ魔王軍一向ですって言っちゃうところでしたね」
いや、まじであっぶな!
「とりあえず今は人間界に溶け込むんだ。勇者にバレれば終わりだからな。人間界に溶け込んで勇者に対抗する術をさがすのだ」
まあ、食事に来ただけだけど。
「かっこいいです。魔王様」
「パパかっこいい」
子供はつられるように言った。
リベンジ魔王の元に少女が現れたからと言ってパパになるなんてあり得るわけがない〜全敗魔王軍の魔王城から始まる勇者討伐。マジでほのぼのしてる場合じゃないって〜 竹広木介 @09192001
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