例えるなら青

オオムラ ハルキ

第1話

こんな日に限って君は優しくて

こんな日に限って僕は苦しくて

こんな日に限ってあいつは意地悪


よっしーこと僕、たっちゃんことタツミ、そしてマミ、僕ら3人は仲の良い友達同士だ。


ある日の放課後。


「なぁ、よっしー今日の放課後空いてる?ご飯行こーよ。」


「あ、ごめん。今日バイトだわ。」


「あー…そっか、じゃあ明日は?」


「明日なら大丈夫。たっちゃんから誘うなんて珍しいね。」


「まぁ、ちょっと色々ね…じゃっ、バイト頑張れよ!」


「うん、また明日。」


僕のタツミへの気持ちは歪だ。

現にこうやってタツミからご飯に誘われるだけで僕は静かに舞い上がってしまう。

僕がタツミのことを恋愛対象として見ているということにタツミはたぶん、気づいてないだろう。

彼の恋愛対象は女の子だし、それに第一彼は鈍感だ。


僕が男だってことを除けばタツミは僕のことをそういうふうに考えてくれるだろうか?


いや、きっと考えてくれないだろうな。

というか、僕自身、僕が男であっても女であっても、タツミが僕の気持ちに気づいたところを考えたくない。


こんなことを考えながら、バイト先までの道のりを自転車でかっ飛ばした。


•••


バイト終わり、タツミから電話がかかってきた。


「もしもし?どしたタツミ」


「よっしー、バイトおつかれー。いや、本当はさ、明日直接メシ食いながらでも話そうかなって思ってたんだけど、やっぱり今日、言いたくなっちゃって…」


「え、なになに?どしたの?」


「実はさ、俺、彼女できた笑」


「………………」


「もしもーし、よっしー、聞こえてる?」


「あ、あぁ…。びっくりしすぎて心臓止まるかと思った………。」


「まぁ、俺も言ってなかったもんなー。」


「……うーん、もしかしてだけどその相手ってマミ?」


「え!?なんでヨッシーわかったの?」


「まぁ、それはタツミのこと見れば分かるし、マミとは恋愛相談会的なのしてたからなぁ。結構前からマミの気持ちも知ってるしね。」


「何だよー…。そっか、知ってたのかー。というかマミも同じ気持ちだったのか…」


「たっちゃん今ニヤニヤしてるでしょ笑」


「なっ…!なんでわかるんだよ笑。というかこれはにやけちゃうでしょ笑」


「まぁ、普段一緒にいるからなんとなくね。とりあえず、おめでとう」


「ありがとう、よっしー!」


「じゃあ、また明日学校でね」


「おう、またな!」


ツーッ、ツーッ、ツーッ。

電話が切れる音が耳の底にこびりつく。


ふぅっ、マミの方だったか。


漏れ出るため息に青色の言葉が乗った。

自転車で来た道を戻って帰路につく。

家に入ってからすぐにシャワーを浴びた。

濡れた目元を隠して欲しくて。


•••


次の日、クラスではタツミとマミが付き合ったという話で持ちきりだった。

僕は一人、不安定な笑顔で彼らを包む輪の外から彼らを見ることしか出来なかった。


この日の1時間目から6時間目の記憶はほとんど無かった。


•••


帰りの会が終わった後、マミが僕の机のところまで来て少し話さない?と誘ってきた。きっと彼女なりに僕に気を遣ってくれているのだろう。マミは僕の事情を知った上で、今まで恋敵として接してくれていた。


「…よっしー、ごめんね。」


「マミは悪くないよ。というか、謝んないでって。これはタツミが選んだ結果だから。僕、マミならタツミとお似合いだと思うしさ。」


「でも…、なんかさ、今までずっと話聞いてきたし、私なんかよりもずっと前からたっちゃんのこと好きだったじゃん?なんか申し訳ないっていうか…横取り感があるっていうか…。」


こういうマミの純粋な優しさは彼女の良いところでもあるのだけれど、今の僕にはこの優しさが痛かった。


「もう、気にしないで。こうなるのも時間の問題だったしさ、僕が勝手に好きになっちゃっただけだから。遅かれ早かれ僕に可能性はなかったんだよ。」


「よっしー………。」


「悪いのは僕さ。ほら、今日二人で帰るんでしょ?多分、タツミ待ってるよ」


こう言って僕は下手くそな笑顔をマミに向ける。


「……ありがとう。」


マミは僕が泣き出しそうなのを察して、そう言って下駄箱へと走っていった。




こんな日に限ってマミは優しくて

こんな日に限って僕は苦しくて

こんな日に限ってタツミは意地悪


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