ランチ

私は今、食堂にいます。


本当はライアン様と一緒にランチをしたかったのですが、そうもいってられません。情報収集の方が大切ですから。


というわけでビュッフェ式の食堂に一人でやって来た私ですが……ここでも変な視線を感じます。


ヒソヒソ、コソコソ……


どうやら私の悪い噂は、学園中に広まっているようですわね。あぁ、めんどくさい。今度クロロ殿に頼んで噂の出所を調べておきましょう。


さて、ランチはそれなりに早く食べましたし、さっさとこんなところおさらばしましょう。


いろんな場所も調べておかないと行けませんし。えぇ、何せどなたも案内してくださらないから一人でやるしかないでしょう?


全く……まぁ、一人の方がやり易くはありますわね。


まずは地理を覚えることから始めましょう。

……食堂の場所は最初に教員から教えてもらっていましたが、あとわかる場所は職員室くらいね。


その他教室は今から探し出しましょう。ふふ、なんだか冒険をしている気分で、楽しいですわ。


ガシャン!


なんて一人ワクワクしながら歩いていたときです。中庭と思われる場所から音がしました。


見てみると、そこには何人かの令嬢が、一人の生徒を囲んでいました。


よく見ると……あれはさっきライアン様を囲っていた令嬢ですわね。エルフィン嬢の取り巻きですわね、大方エルフィン嬢がライアン様の相手をしていて暇をも手余しているのでしょう。


そんなことより、わたしの目が向かったのは、囲まれた生徒の方ですわ。あの、身なりはあまりよろしくない恐らく平民の……私に唯一笑いかけてくださった方。


その方が、なぜ……囲まれているのかなんて、見ればわかりましたわ。


あれはどう見ても、いじめてるようにしか見えません。現に持参したであろうお弁当が無惨にも地面に転がっています。叩き落とされたんでしょう。


「どうしていつもいつも登校してくるのかしら? いいましたわよね、これ以上皆さんの気分を害さないでくださいと。」


「そうよ、光魔法の使い手だからって、身分もわからない卑しい人! 」


「同じ空気も吸いたくないのに! 良い迷惑だわ!」


あらあらこれは、随分典型的ないじめですわね……なるほど、ただでさえ平民から魔法の使えるものが現れるのは希なのに、さらに光魔法となれば……妬みをかいますわね。


まぁ、私と違って光魔法使いだからって毛嫌いされてる訳ではないようですね。もしも彼女が平民ではなく貴族なら、誰も文句は言わなかったでしょう。


私なんて令嬢なのに、今や皆さんの噂の的ですよ? まぁそれだけですんでるので良いですけれど。


立場が違うとこうも被害が違うとは……。

平民の方はうつむいたままじっと耐えています。


言い返したところで数で負けていますから、懸命な判断ですわね。


さて、私も探索に戻りましょうか。


そう思って踵を返しましたが、なんだか胸くそが悪くて仕方ない。


だってさっきから私、不当な扱いばかり受けてますのよ? ストレスくらい感じますわ!


こういうときは、こう……ものすごく捲し立てたくなるのですよ、気持ちが。


このくすぶっているストレスを、ぶつけられたらどんなに良いか。


あ、そうですわ。ちょうど良いサンドバッグがいるじゃないですか!


「お見苦しいですよ」


中庭まで歩いていくと、取り巻き令嬢たちも平民の生徒もビックリして私を見つめました。私と言うイレギュラーに驚いているのでしょう。


「な、なんですの? 貴女には関係な……」


「胸くそ悪いんですよ、見ていて。十分不快ですわ!」


コソコソコソコソコソコソコソコ!!!

もうほんっっとうに鬱陶しい!

人を噂の餌にしないでほしいのよ!!


「大体良い年した令嬢がよってたかって一人で。恥ずかしくないのかしら?」


複数でやるからとっても質が悪い。

数の利をいかしてくるから、一人は圧倒的に不利!

大体卑怯なのよ!

文句があるなら正々堂々……じゃなくても、せめて一人でやりなさいよ!!


協力者を得るのと、集団リンチは違うわよ!


「私から見れば、あなた方の方が闇魔法の使い手にふさわしいわね」


「ヒィ!」


……あら、私ったら。おもいっきり冷笑したあげくに闇魔法の魔力が溢れてしまいました。


闇魔法は負の感情が起因するため、私もまだコントロールできないのです。


まぁ、これで脅しにはなったでしょう。

私からは見えませんが、皆様相当恐怖に戦いております……これはけっこう怖く見えたのでしょうね。


「お、覚えておきなさいよ!!」


そう言うと、取り巻き令嬢たちは走って逃げていきました。


あらあら、走るだなんて、はしたない。


一人のこった平民の彼女はへなへなと座り込んでしまいました。腰でも抜けたのかしら。


「大丈夫ですか?」


「え……あ、はい……」


「怖がらせてしまってごめんなさい」


この方を怖がらさせるつもりはなかったのですが、どうにもコントロールが難しい。


彼女に手をさしのべ、とりあえずベンチに座りましたが……。


これ、何を話しましょう……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追放令嬢、自国を侵略す ぺる @minatoporisio

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ