第2話 苦手なタイプ
翌日、俺と竜介はいつものように登校し、午前の授業をこなし、食堂で昼飯を食っていた。俺と竜介が通う高校は都内でもそこそこの成績の公立高校なのだが、公立の割には設備がしっかりしており、生徒がのびのび過ごせる空間が保たれている。
「午前の数学全然わかんなかったな、今日帰り参考書買いに本屋寄ってくけど、春も付いてくるか?」
大雑把な性格で勉学をないがしろにしていそうな竜介だが、実は真面目に勉強しており、入試の順位も実は10位以内に入っている秀才だ。
「あー、そうだな、暇だし付いてくわ、あと、春って呼ぶな」
「いーじゃん、高校デビューしたからって、そんな気にすんなって、今更さ」
竜介は大神春来というおれの名前からハルという部分をあだ名にして俺のことを呼んでいる。そのせいで中学ではハルちゃんだのハルくんだの、かわいいあだ名が定着してしまっていた。高校では流石に、それは避けたい。
「へー、ハルって呼ばれてるんだ、かわいいね」
よりにもよって、聞かれたくなかった人間に聞かれてしまった。
「だから言わんこっちゃない」
軽く竜介を睨み付ける。竜介は爆笑しながら、悪い、悪いと言い、彼女を俺たちが座っていた机に呼んだ。
「ハルって呼ばれてるんだね、私もそう呼んでいい?」
「ダメに決まってんだろ」
「え!ダメなんだ!ハルって呼んだ方が呼びやすいのに」
彼女は松本華。俺たちの学年でおそらく、学年ヒエラルキーの頂点にいる人物だ。女子の友達も多ければ、男との絡みもいける、オールラウンダーだ。そして、見た目も芸能人並みに整っている。竜介も学年の中で存在感を発揮する存在になってきており、必然と彼女と接触する機会も多く、俺もこいつと顔見知りになっている。だが、俺は彼女が苦手だ。どうしても彼女の性格が、俺には不気味に感じてしまう。 おそらく、大変な努力をしてきたのだろうし、今もしているのだと思う。そこは尊敬できるけど、やっぱり不気味に感じてしまう。そんな勝手な想像をしているうちに竜介と松本の他愛のない会話も終わったようだ。
「じゃあ、またね、竜介。ハルくーん!」
「あ、おい、ハルくん、って呼ぶな」
「あはは、ハル、反応面白いね!」
そう言って彼女は去っていった。明らかに俺のことをからかっている。ポニーテールのお姉さん系の見た目をしていながら、意外とあどけない感じに恋する男も多そうだなと思う。そいつからしたら俺は羨ましいんだろうけど、やっぱり不気味だ。
「あはは、お前完全にいじられキャラだな!」
カチンときた俺は、竜介の頭をグリグリしてやる。
「元はといえば、竜介のせいだかんな!」
「あー!痛い痛い、悪りーって!」
そんなこんなで、松本との絡みと、軽くクラスでハルくんというあだ名が定着しかかっていること意外は、特にいつもと変わらず学校が終わった。
俺と竜介は予定通り、電車に乗って隣町の大型書店で数学の参考書を探していた。カフェが併設されてたり、洋服屋があったり、かなり広い内装になっている。平日の割にはかなり込み合っていた。
「どうだ、参考書見つかりそう?」
「うん、でも電車の中で見つけた、勉強のアプリの方が良さそうなんだよねー」
「完全に無駄足じゃねーか、コノヤロウ」
「あはは、まあ、いいじゃないの、好きなもんでも見てこよーぜ!」
そう言うと竜介はゲームコーナーの方に向かっていった。はあ、やれやれだぜ、なんて思いながら俺も趣味である小説を物色しに行くことにした。最近は推理小説にはまっており、1日で推理小説を2冊ほど読み上げる日もある。それくらい本は好きだ。しばらく本を物色していると、自分と同じように、小学校低学年くらいの子もぶらぶらと歩き回っているのに気付いた。やがて、その子は諦めたように、その場に座り込んでしまった。明らかに迷子だが、小心者の俺にとって、幼い子に声をかけるという行為にはある程度の勇気が必要であった。勇気を振り絞り、いざ、声をかける。
「だ、大丈夫?迷子かい?」
勇気が足りなかったのか、ぎこちなく、回りには、不審に見えたのだろう。
「ちょっとアンタ!!うちの妹になにするきなのよ!!」
後ろから怒鳴られて、背中がビクンとはね上がった。おそるおそる振り替えると、そこには見覚えのある顔があった。
「あれ、ハルくん?」
そこには松本華がいた。彼女もかなり気合いを出して、声を出したのか強ばった表情をしていた。2人が状況を理解しようと沈黙している間に、少女が口を開いた。
「違うよ、お姉ちゃん、このお兄ちゃんは私を迷子センターに送ってくれよようとしたんだよ!」
少女がそう言うと松本は赤面し、おれに謝ってきた。
「本っ当にゴメン!不審者だと思ったんだ!」
「いや、俺のほうこそ、不審者みたいな雰囲気出しちゃってごめん」
彼女の、不審者だと思ったんだ、という言葉に軽く傷付いていた。
「でも、ありがとね!妹に声かけてくれて!ハルくんは立派だよ!」
「いや、まあ、当然のことだよ、また、学校でな」
そう言ってその場を離れようとすると、松本は俺の背中に向かって、こう言った。
「こんど、なんか奢らせてね!」
軽く返事をして俺はその場を去った。
竜介との帰り道、俺はずっと松本とのやりとりを思い出していた。本屋で、怒鳴る松本を見て、こいつも怒ったり、するんだと、何故か関心していた。勝手に彼女のことを得体のしれないものだと思っていたけど、少しだけ、彼女のことを知れたような気がした。
「どうしたの?なに考えてんの?ハル?」
そういえば、完全に松本の中でハルという呼び名が定着していた。とりあえず、竜介の頭をグリグリすることにした。
「痛い!痛い!なんで!」
ハルのハナ @hiro122227
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ハルのハナの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます