緊急事態条項による少子化問題悪化
@HasumiChouji
緊急事態条項による少子化問題悪化
「まて、どう云う事だ?」
首相は、
「いえ……ですので、この国には、我々にとって価値ある『魂』の持ち主は……最早、その方々しか居ないのですよ」
「そ……そんな馬鹿な……。この国には……まだ、一億以上の大人が……」
「畏れながら、総理大臣閣下。前回の緊急事態対応の際に、価値ある『魂』の持ち主が一気に数を減らしましたので。では、選択を。第二次関東大震災を無かった事にする対価として、日本国籍を保有する4歳以下の子供全員の『魂』を今すぐに私に引き渡すか、さもなくば、このまま首都と……引いては、この国が滅びるのを座して待つか」
あまりに無茶苦茶な憲法改正案だった。
ここ二十年足らずの間に何度も起きた「緊急事態」……大地震・疫病の流行・これまでの常識を超えた超々大型台風などなどに政府は上手く対応が出来ておらず、もし、今後、「緊急事態」が起きた場合の対応は、これまでとは全く異なる「何か」が必要とされていた。
そして、「緊急事態」対応の抜本的改善の為に出されたのが、今回の憲法改正案だった。
「参考人の……えっと……」
「『
国会に参考人として呼ばれた「悪魔」はそう名乗った。
「は……はぁ……。で……では、あなたには、その……」
「ええ。現実改変能力を持っておりますが……日本政府の御依頼により、私の能力を行使する代りに、日本国籍を保有する自由意志を持つ善良などなたかの魂を頂戴いたします」
「あの……失礼ながら……たしかに、参考人の姿は……悪魔にしか見えませんが、本当に、そのような能力をお持ちなのですか?」
「では、デモンストレーションとしまして……議員が魂を捧げてもかまわぬ、と考えている願いを叶えて差し上げましょう」
「えっ?……うげっ?」
国会で、その野党議員が突然死したその時、1ヶ月前の季節外れの超大型台風により大きな被害を受けていたその議員の地元は……まるで台風が来た事実など無かったかのように一瞬で復興し……あまつさえ、台風で命を落とした者達も復活していた。
悪魔が国会で国会議員を殺害した場合に、殺人罪に問えるのか、仮に有罪判決が出たとしても処罰は可能か? と云う些細な問題は、さも当然の如く、無視され、あっと云う間に憲法に緊急事態条項が追加された。
『政府の指定する緊急事態に当っては、政府が契約を結んでいる「悪魔」の現実改変能力を使用して対処する。その際に、日本国民の中で「悪魔」が指定した者は魂を捧げる義務を有する』
と云う、とんでもない内容の……。
だが……憲法改正後の最初の緊急事態は思いがけぬ理由で起きた。
「緊急事態だ。このままでは、次の選挙で我々は政権を失なうだろう」
「あの……それは……緊急事態でしょうか?」
「悪魔である君が、何故、そんな事を気にするのかね?」
「私にも、一応の職業倫理はございますので……」
「だが、無能な者達が政権を握ってみろ。日本の将来は、どうなると思う?」
「はい、私と日本政府の契約が続いている限り、無能な政府が失政をやらかしても、挽回の手段はいくらでもございます。一億歩譲りまして、首相や与党の皆様が御自分で思われている程度には有能であらせられるとしても、首相を始めとした皆様が憲法に追加した『緊急事態条項』が『政府や政治家は有能であらねば国が危うくなる』と云う前提を破壊してしまったのでございます。最早、この国の国政選挙はアイドルやアニメのキャラの人気投票程度の重要性しか有りません」
「ふざけるな……。馬鹿な国民どもが、そのつもりなら……国民を我々の奴隷に変えてしまえ」
「あの……それは……国民の皆様から自由意志を剥奪しろ、と云う事でしょうか?」
「そうだ」
「全員ですか?」
「決っているだろう」
「あの……閣僚や与党幹部の皆様や、その御家族もでしょうか?」
「当然だ。閣僚や与党幹部の中にも、夫婦仲が悪かったり、子供や孫が反抗期で困っているヤツが居るらしいんでな。自由意志を残すのは国を維持するのに必要最低限の連中だけで良い」
「は……はぁ……」
第二次関東大震災による首都圏壊滅は、その約4年後の事だった。
「ですので……我々にとって価値ある魂は『自由意志を持つ』『善良なる』方々の魂でございます」
「あ……」
「首相のせいで、この国には『自由意志を持たぬ者』と『悪人』だらけでございます。強いて『自由意志を持つ善良な人間』が残っているとするなら……」
「お前が、あの願いを叶えた以降に生また子供か……」
「お選び下さい。総理大臣閣下にとって真に大事なのは……日本の今か……日本の将来か……を」
緊急事態条項による少子化問題悪化 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます