妹の友だちがグイグイ来る 〜彼女に立候補って? 急展開過ぎるんだが〜

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

 ある日の休日のことだ。

俺は家でダラダラしている。

今日は大学も休みだし、他に予定も特に入れていない。


「兄貴ー? 今日、仁奈がうちにくるからー」

「へえ、そうなのか。ずいぶんと久しぶりだなあ」


 妹の言葉を受けて、俺はそう言う。

妹は女子高生だ。

そして当たり前だが、妹の友だちである仁奈ちゃんも女子高生である。


 彼女が小学生の頃は、よくうちに遊びに来ていた。

俺もいっしょにゲームをしたりしたこともある。


 彼女が中学生になってからは、うちに来る機会が減った。

何も妹と仁奈ちゃんが不仲になったというわけではない。

単純に、家の外で遊ぶ機会が増えたのだろう。


「私は今からコンビニに行ってくるよ。仁奈が来たら、お茶でも出してあげてよ」

「わかった。できるだけ早く戻ってこいよ?」

「善処するー」


 妹はそう行って、出ていった。

コンビニに行くなら、いっしょに行ったり、待ち合わせ時間をずらしたりすればいいのにな。

まあ、お茶を出すくらい別に構わないけどさ。


 そして、しばらくして。


 ピンポーン。

来た。


 インターホンの画面を見る。

仁奈ちゃんのようだ。

しばらく見ないうちに少し変わっているが、昔の面影も残っている。


 俺は玄関のドアを開ける。


「やあ。久しぶりだね、仁奈ちゃん」

「お、お久しぶりです。お兄さん」


 仁奈ちゃんがそう言って、頭を下げる。

相変わらずの”お兄さん”呼びか。

もちろん、彼女と俺に血縁関係はないが。

昔からの名残だ。


「妹のやつは、コンビニに行ってるってよ。上がって待ってな。お茶でも出すから」

「お、お邪魔しますね」


 仁奈ちゃんが靴を脱ぎ、うちに上がる。

とりあえずリビングに案内し、お茶を出す。


 仁奈ちゃんはお茶を少し飲みつつ、所在なさげに部屋を見回している。

俺は、特にすることがない。

1人で自室に戻るか?

いや、客人をリビングに放置するのもな……。


 しかし、特に話すこともなくて気まずい。

俺と仁奈ちゃんの、共通の話題と言えば……。


「妹が帰ってくるまで暇だね。何かする?」

「お、お構いなく……。あっ。あのゲーム、なつかしいですね」


 仁奈ちゃんが、リビングのテレビ付近の据え置き型ゲームを見つけてそう言う。

大奮戦スマッシュシスターズというゲームだ。


「ああ。小学生のときに、よくやったやつだね。暇つぶしにやってみる? まだ起動するはずだけど……」


 年に数回程度、思い出したときに起動して1人で遊ぶことがある。

最後に起動したのは数か月前か。

かなりの年代物だが、まだまだ現役だ。


「い、いいですね。やりましょう」


 そんな感じで、仁奈ちゃんとゲームをすることになった。

妹が帰ってくるまでの、ほんの暇つぶしだ。

そのはずだった。

しかし。


「う……。仁奈ちゃん、強すぎない?」


 おかしい。

こんなはずでは。

年に数回程度とはいえ、俺はこのゲームの現役だぞ?

数年ぶりにプレイする仁奈ちゃんに、なぜ負ける。


「えへへ。じ、実は、このゲームの続編をやり込んでいるのです。お兄さんは、持っていないのですか?」

「続編かー。特に理由はないけど、やってないなあ」


 まあ、大学生活で少し忙しかったしな。

なつかしいゲームをたまに遊ぶくらいならともかく、新規のゲームを遊ぶほどの時間はなかった。


「そ、そうですか。続編も面白いですよ? 今度いっしょにしませんか?」

「ん? ああ、そうだな。仁奈ちゃんがそう言うなら、前向きに考えておくよ」


 大学生活も落ち着いて、余裕ができてきたところだ。

新しいゲームを1つ遊ぶくらいの時間なら、まったく問題なく確保できる。


 その後も、仁奈ちゃんとこのゲームで遊び続けた。


「くう……。本当に、仁奈ちゃんは強いな」

「お、お兄さんは、ここのコマンド入力が少し苦手みたいですね……」

「これか? こう?」

「いえ、そうではなく。ここからズバッとして、ズズイッとボタンを押すのです……」


 仁奈ちゃんがアドバイスしてくれる。

かなり直感的なアドバイスだ。


「うーん……」

「す、少し失礼しますね……。指をこうして……。こうするのです」


 ……!

仁奈ちゃんの手が俺の手に重ねられる。

そして、コマンド入力について物理的なサポートをしつつ教えてくれる。


 柔らかい手だ。

それに、俺の顔のすぐ近くには仁奈ちゃんの顔がある。

心なしかいい香りがする。


 妹と同じで、まだ子どもだと思っていたが……。

もう、女子高生だもんなあ。

数年後には成人だ。

いつまでも子どもではないということか。


「な、なるほどな。よくわかったよ。上手くなった気がする。ありがとう、仁奈ちゃん」

「い、いえいえ。どういたしまして」


 まあ、仁奈ちゃんにその気はないだろう。

彼女にとって、俺はあくまで”友だちの兄”だ。

俺がそういう目で彼女を見てしまうと、妹と彼女との友情にも亀裂が入るかもしれない。

ここは、我慢しないとな。


「と、ところで……。お兄さんには、彼女さんはいるのですか?」

「へあっ!?」


 仁奈ちゃんからの思わぬ問いに、俺は変な声をあげてしまった。


「い、いないよ……。残念ながら、縁がなくてね」


 大学にも可愛い子は何人かいるが、俺とはさほど親しくない。

女っ気のない大学生活を送っている。


「そ、そうですか……」


 よしっ。

仁奈ちゃんがそう小声でつぶやき、ガッツポーズをしている。

そして、彼女が真剣な顔をして口を開く。


「お兄さん。わ、私なんて、彼女にどうですか……?」

「っ!?」


 仁奈ちゃんが赤い顔で迫ってくる。

ええ?

急展開過ぎるんだが。


 ……ははーん。

さては。


「……ドッキリか? 妹も影で見ているんだろう?」

「ド、ドッキリなんかじゃありません。コンビニに用事っていうのも嘘です。わたしが連絡するまで、あの子は帰ってきませんから」


 仁奈ちゃんがそう言う。


「マ、マジか……。妹もグルだったとは」


 赤い顔で迫ってくる仁奈ちゃん。

それにたじろぐ俺。

状況は拮抗している。


「……わたし、お兄さんのことが好きだったんです。小学生の頃は、本当のお兄さんのような意味での好きでしたが。中学生になった頃からは、男の人として好きになりました」

「そ、そうだったんだ……」


 俺のことを好きだと聞いて、素直にうれしい。

それはそうとして、今まで仁奈ちゃんのことは妹のように思っていたしな。

まあ、先ほどは成長した仁奈ちゃんにドキッとさせられたとはいえ。


「ねえ、お兄さん」

「な、なんだ?」


 仁奈ちゃんが一拍置いて、口を開く。


「……わたしじゃ、ダメでしょうか?」

「ーー!」


 仁奈ちゃんが上目遣いで、そう言う。

か、かわいい……!

ダメじゃない。

ダメじゃないがーー。


「し、しかし……。仁奈ちゃんのことは妹のように思ってきたし」

「こ、これからは、1人の女の子として扱っていただければだいじょうぶです」

「大学生の俺が、女子高生である君と付き合うのは、社会的にもギリギリアウトな気が……」

「け、結婚を前提にした真剣な交際ならだいじょうぶです。あの子も賛成してくれていますし」


 そうだ。

妹も、この件に絡んでいるのだった。


「な、何なら、わたしの両親にも紹介しましょうか? お兄さんのことは知らないわけじゃありませんし、きっと賛成してくれますよ」


 仁奈ちゃんがそう追撃してくる。

仁奈ちゃんの家族とうちの家族は、家族ぐるみの付き合いだ。

小学生の頃には、いっしょにキャンプや公園に行ったこともある。


 知らない間に、外堀が埋められていた。


「わ、わかった。まずは、清い交際から始めよう。それでいいか?」

「えへへ。もちろんいいですよ。よろしくお願いしますね」


 仁奈ちゃんは満足そうにそう言って、引き下がった。

とりあえずの脅威は去った。


「さ、さっそく、来週の予定を考えましょう。このゲームの続き? 映画鑑賞? 遊園地? 楽しみですね」


 仁奈ちゃんが来週の予定をもう入れようとしている。

可愛い女の子に好かれて、もちろん俺も満更ではない。

満更ではないが……。


 グイグイ来すぎだよ!

もう少し落ち着いて考える時間をーー。


「お兄さん。何を他人事のような顔をしているのですか? いっしょに来週の予定を考えましょう」


 このグイグイ来る妹の友だちに、俺は翻弄されていくことになるだろう。

そんな予感がする。

だが、それも悪くないような気がした。

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