第108話 これで終わりや!

「アリエーヌが……アリエーヌが……」

 潜水帽の中から漏れ出る泣き声は鼻水をすする音と相まって、もう、何を言っているのか分からない。

 キャディもまた、アリエーヌの状態がただならぬことは一目で分かった。

 だが、今は、キャンディの回復魔法を施しても魔力が干からびたアリエーヌを救うことは不可能なのだ。

 そう、魔力は生命の活力。

 物理的なものではない、どちらかというと精神的な物。

 回復魔法などで元に戻すことは困難なのである。

 当然、ライムのダメージ転嫁でも無理な話。

 だから、ヒイロもいまだに魔法回路がズタボロのままなのである。


「マーカス! いや! ヒイロはん! アリエーヌはんの事は後まわしや!」

 キャディもまた、目に涙を浮かべていた。

 だが、それでも、無理やりヒイロの手をひき引きずり起こす。

「ヒイロはん! 今度はうちの魔力を使いや! うち、攻撃魔法はできへんさかい!」

 キャディは賢者様である。

 だが、なぜか攻撃魔法はとんとできない。

 まぁそうは言っても、回復魔法ですらあべこべで全く役には立たないのであるが。

 

「天にまします我らが神よ

 刮目かつもくせよ!

 塵界じんかい蚕食さんしょくする凡愚ぼんぐ

 怠惰をむさぼり天に背く

 盟約に従いこの者たちに裁きを下せ!

 砕け! 砕け! 打ち砕け!

 天より降り注ぎし雷よ

 この世の悪を打ち砕け!

 降り落ちろ! いかづち系究極魔法!

 ライトニングハンマアァァァ」


 天空から大きな雷が!

 落ちない……

 全くもって落ちてこない……

 それどころか、地面に転がるテコイの首のほうが、落っこちた!


 どこに?


 そうヒイロたちの目の前の地面が突然、裂けたのだ!

 深い深い地面の切れ目。

 地獄の底にまで通じていそうな漆黒の割れ目であった。

 テコイの頭が、その裂け目の奥へと落ちていく。

 そして、静かに閉じていく地面の裂け目。

 ガシーンッ!

 ついに、地面が閉じ切った。


 雷魔法で、なぜ土魔法?

 ココでもやっぱりあべこべか!


 ヒイロは力なく目の先の閉じた地面を見つめていた。

「終わったのか……」

「そうや……これで終わりや……」

 そう言うキャンディは力なく膝をついた。

 もう、キャンディには魔力が全く残っていないのだ。

 だが、アリエーヌと違い魔力制御ができるキャンディ様。

 ちゃんと魔法回路の安全装置が働いて、命の危険だけは回避していた。

 おそらく全魔力のフルパワーで詠唱していれば、この惑星の反対側まで地面が裂けて、星が真っ二つになっていたかもしれない。

 それが、ささやかなクレバスごときで済んだのがその証拠である。


「ふぉぉぉぉぉぉ! 南特急官鳥なんときゅうかんちょう!」

「アタタタタタタッタタタ! ラビット流星拳りゅうせいけん!」

「トロピカル鰤鰤ブリブリアタックゥゥゥにゃ~ん!」

「ナシゴレン……じゃぁ……日和山ひよりやま落としだワん!」

 地面に転がる黒いローブの男を、思い思いにどつきまくる四人の少女。

「えっ! 私どうしよう……そうだ!」

 何かを思いついたのか、ぱっと顔が明るくなるライム。

 ハエたたきで男の尻をリズミカルに叩きだした。

「抗議します! ハイ、お引き取り♪ お引き取り♪ さっさと引き取り! シバくぞコラ!」

 もうシバいとるがな……

「ピストン! ボストン! ルイビト~ん! とっとと入れんかぁぁぁぁっぁぁ!」

 ブス!

 男のケツに茶色い小瓶が突き刺さっていた。

「秘技! 騒音幼女そうおんようじょ!」


 男のケツの穴に超回復薬「チン造を 捧げよ!」が流れ込んでいく。

 熱い!

 熱い!

 熱い!

 直腸による直接吸収!

 これは効く!

 熱すぎるぅぅぅぅ!

 熱くなければ人じゃない! 熱くなければ漢じゃない!

「敵から学ぶことは多い……」

 男はぼそっと呟いた。

 !?

 咄嗟に飛びのくライムたち。

 身構えるライムたちをそっちのけで、男はスッと立ち上がる。

 そして、何事もなかったかのようにケツから小瓶を引き抜いた。

 ショジョをささげよ!

 いやいや、既に捧げたところ!

「負けても全然悔しいと思わなくなった自分に気が付いてしまった……」

 う~ん……それは「ペ」じゃなくて「テニス」の話だと思うんですよ……

 熱く熱く燃える男が、勝負にこだわるお話……

 この状況とは、ちょっと違うんじゃないかな……

 あっ! だからこの超回復薬の商品名! 「シュウ」ではなくて「チン」なのか!

 なんか、違うような気がwww


「『死んシン』だ! などと言うとでも思ったか! バーカ! バーカ! バーカ!」

 男は涙目になりながら大声を上げていた。

 傍から見るとみっともないオッサンが、がに股で泣き叫んでいるではないか。

 みっともないというより、みじめ……

「もういい! お前たち! 一匹残らず駆逐してやる! この世から……一匹残らず駆逐してやる!」

 泣き叫びながら、黒いローブの男は走り去っていった。

 ケツを押さえて駆けていくハゲ頭……

 白煙立ち昇る荒野の中をかけていく。

 なんだか傷ましい……

 それはまるでポッキリ3千円と言われたSMクラブで、まんまとぼったくられたオッサンがヤクザに追われて逃げていくかのようである……

「何でアリンスの?」

「さぁ?」

「きっと人生の負け犬の遠吠えだワン」

「人生というレールから一度脱線すると二度と戻ってこれないにゃぁ~」

「こわいですぅぅ! この世の中こわいですぅぅぅ」


 ヒイロは、ゆっくりとアリエーヌに歩み寄ると、膝をつく。

 アリエーヌへと伸ばす手が震えていた。

 しかしヒイロの手は、アリエーヌの直前でピタリと止まってしまった。

 己がしたことへの後悔が、その先に進むことを恐怖させていた。


「あの者たちを拘束せよ!」

 ヒイロの背後で涼やかな男の声が響いた。

 それに続いて数十人もの足音が近づいてくる。

 振り向くヒイロの先には、守備兵たちの持つ槍先が冷たい光を散らしながら突き出されていた。

「エコイツ様! ちょい待ってや! この兄さんはアリエーヌを助けようして!」

 キャンディがヒイロをかばうように手を広げた。

「そうだぞ、巨大ゴキブリを倒した功労者だぞ!」

 グラマディもまた、膝まづくヒイロをかばう。

 だが、エコイツは冷たい視線を送る。

「そのゴキブリが、我が国に何か仇をなそうとしていたのか!」

 !?

 キャンディとグラマディから、言葉が出ない。

「そのゴキブリは、最初からアリエーヌを殺そうとしていたとでもいうのか!」

 そう言われれば……ごもっとも……

 確かにテコイは、単にマーカスやヒイロを殺そうとしていただけで、キサラ王国やアリエーヌを敵視していたわけではない。

「その代償が、この有り様か!」

 町中でドッカンバトルをやったものだからマッケンテンナ家どころかキサラ王国の3/4が今や焦土と化していた。

「いや……そう言わはりますが……途中から、あのゴキブリ、こともあろうにアリエーヌ王女をねろとりまして……」

 キャンディが懸命に言い訳をする。

 だが、エコイツは冷静。

「それは、お前らが先に手を出したからであろうが!」

 た・確かに……

「お前たちが、手を出さねば、ゴキブリも仕掛けてこなかったのではないのか!」

「違うんだ! エコイツ様! アリエーヌを狙おうとした刺客がいたんだ! 俺たちは、アリエーヌを守ろうとしたら、ゴキブリまで巻き込んで……」

「それは重々承知の上!」

 エコイツは、地面に転がるスットコビッチ第3王子を指さした。

「スットコビッチ! アリエーヌ暗殺容疑で貴様も拘束する!」

 立ち尽くしていたスットコビッチ第3王子もまた守備兵に取り囲まれていた。

「エコイツ兄者! これは一体どういうことだモシ!」

「ふん! スットコビッチ! よくもぬけぬけとそのような事を言えるもんだな」

「一体どういう意味だモシ……」

「貴様がアリエーヌの暗殺を企てたであろうが!」

「知らないモシ! 僕は知らないモシ!」

「嘘を言うな! 貴様とコリナンダーがアリエーヌの暗殺をしようとしていたのはこの男が証言している!」

 エコイツの後ろでは、センドウ社長が手錠をかけられていた。

「スットコビッチ様……申し訳ございません……正直に話せば、極刑は許してもらえるそうなの……」

「センドウ! そんな言葉を信じたモシか⁉」

「だって、エコイツ様……イケメンだし……イケメンは嘘つかないって言うじゃない……」

「バカだモシ! イケメンは存在そのものがこの世のウソだモシ! それに気づけモシ!」

 エコイツ第一王子は、キッとスットコビッチ第三王子を睨み付けた。

「もう、言い逃れはできんぞ! スットコビッチ!」

「違うだモシ! これは、コリナンダー兄者の計画だモシ!」

 だが、この場にはコリナンダー第二王子の姿が見えない。

 てっきり、一緒に行動しているものだと思ったのだが……

「コリナンダーは、どこに行った!」

「しっ……知らないモシ……何か、凄い計画を思いついたとか言って、どこかに行ったもし」


 慌てた様子で守備兵が駆けつけ膝をつく。

「報告! 巨大ヒドラが王都に向かって進行中!」

 咄嗟に顔色が変わるエコイツ。

「距離は!」

「すでに外城門を突破したとのこと!」

「進路は!」

「まっすぐにこちらに向かっております!」

「ちっ! コリナンダーの仕業か!」

 ――ちっ! コリナンダーの奴が……ここまで愚かだとは思いもしなかった……

 エコイツは唇をかみしめた。



 という事で、読んだらレビューくだちゃい……

 


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Lv1のモンスターしかテイムできないと言う理由で追放されたが、どうやら俺はモンスターを進化させることができるようでスライムが幼女になっちゃた、でも、俺のパンツを下げるのやめてくれ! ぺんぺん草のすけ @penpenkusanosuke

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