第938話 逢魔家は仲良し。生物が呼吸をするのと同じレベルの常識さ

 藍大達が大会議室に戻って来たため、全パーティーがこの場に集まった。


 それだけではなく、伊邪那美も表彰式を行うため大会議室にやって来た。


 伊邪那美が登場した瞬間、藍大達以外が伊邪那美に深く頭を下げる。


「苦しゅうないのじゃ。頭を上げよ」


 伊邪那美は神様扱いされてご機嫌な様子でそう言った。


 (逢魔家じゃただの食いしん坊ズの一員だけど、他所からすれば日本の主神だったな)


 藍大が割と失礼なことを考えていると、サクラが藍大の隣で口を開く。


「忘れてたけど、伊邪那美様って偉い神様だったね」


「サクラ、そんなこと言っちゃ駄目だぞ」


「は~い」


 藍大が人差し指を口の前に持って来てシッとジェスチャーすれば、サクラは伊邪那美のプライドをこれ以上傷つけないように黙った。


 ちゃっかり藍大とサクラの会話を聞いていた茂は、逢魔家にお邪魔して食事を共にした時のことを思い出して苦笑した。


 不敬だと注意しないあたり、茂も伊邪那美は食いしん坊ズの一員だと認定しているのだろう。


 それはそれとして、いつまでも伊邪那美をちやほやしているだけでは表彰式が始まらないから、ブラドが伊邪那美の隣に移動して口を開く。


「諸君、そろそろ表彰式を始めるので静粛にするのだ」


 表彰式の進行を邪魔しようと思う者は誰もいないから、ブラドに注意されて静かにした。


「よろしい。では10位から順番に踏破タイムとパーティー名を発表するのだ。10位は1時間9分52秒でジミ・リンのパーティーである!」


「うぅ、最初に挑んだ後に何も目立てずビリだなんて・・・」


 パチパチと他の参加者達に拍手で健闘を称えられたが、沙耶ジミ・リンは悔しそうにしていた。


 他に参加したパーティーを考えればこの順位なのは仕方あるまい。


 ブラドはどんどん発表を続ける。


「地味脱却の道のりは長そうであるな。次は9位なのだ。踏破タイムが1時間1分35秒の腹黒王子のパーティーである!」


「ブービー賞はないですよね。残念です」


 拍手を送られる中、重治腹黒王子はおどけてそんな風に言った。


 ビリにならなかっただけマシだと思っているので、これ以上のコメントはなかった。


「残念ながら3位より低い順位に副賞はないのだ。8位の発表に移るぞ。踏破タイムが1時間40秒でアクアリウムのパーティーである!」


「危なかったです。あと1分遅かったらもう一つ下の順位でした」


 理人アクアリウムはひやひやした素振りでコメントを残した。


「下を見ず上を見よ。次は7位の発表なのだ。踏破タイムが1時間を切って58分14秒で雑食神のパーティーである」


「雑食材が手に入ったのでこの結果に悔いはありません。雑食に感謝を」


 狩人雑食神は相変わらず雑食第一の考えであり、これには他の参加者も流石雑食神と苦笑するしかなかった。


「雑食神は全くブレないであるな。さて、6位の発表なのだ。踏破タイムが45分33秒でコスモフのパーティーである!」


「チュウ・・・」


「マロン、次回は順位を上げるよ」


「チュ!」


 マロンは6位が悔しかったのかしょんぼりしていた。


 それゆえ、結衣コスモフに頭を撫でられて次はもっと順位を上げてやると気持ちを切り替えた。


 ちなみに、マロンがやる気になったのは3位以内に入った時に表彰されれば副賞で食べ物を貰えると予想していたからだ。


 そうでもない限り、マロンがここまでやる気を見せることはないだろうから納得できる。


「5位は6位のパーティーと僅差なのだ。踏破タイムが45分17秒で白雪姫のパーティーである!」


「ギリギリ半分より上ですね。次はランクインを狙います」


 白雪は日本一の女優であり、順位争いに対して意欲的だから次はランクインを目指すと宣言した。


「向上心があるのは良いことなのだ。次の4位であるが、踏破タイムが42分37秒で死皇帝のパーティーである!」


「悔しいです! 一番弟子としてワンツーフィニッシュを決めたかったです!」


「よしよし。今夜は私と花梨、ポーラが慰めてあげる」


 ランクインまであと少しだったこともあり、マルオは本当に悔しそうだった。


 そんなマルオをローラとポーラがよしよしと慰めるのが印象的だった。


「死皇帝よ、その悔しさをバネにして励むのだ。さて、いよいよ3位の発表なのだ。ここからは表彰があるので楽しみにするが良いぞ。3位は踏破タイムが35分46秒でロボットマイスターのパーティーである!」


 ブラドが3位は睦美達だと告げると、他の参加者達が盛大な拍手を送る。


 睦美達は伊邪那美の前に移動して彼女の言葉を待つ。


「ボスラッシュタイムアタック3位。”近衛兵団”神田睦美。其方は頭書の通り優秀な成績を収めたのでここにその努力を賞するのじゃ。おめでとうなのじゃ」


「ありがとうございます」


「3位の副賞は妾が管轄する神域で収穫した米俵1俵なのじゃ」


「チュッチュ・・・!?」


 マロンは3位の副賞がシャングリラの地下神域で獲れた米だと聞き、今日一番のリアクションを見せた。


 副賞はやはり食べ物だったと自分の予想が的中して得意気な反面、自分がそれをゲットできなかったことにショックを受けたのである。


 睦美は米俵をメリエルに持たせて伊邪那美に感謝する。


「大切にいただきます」


「うむ。櫛名田比売も太鼓判を押した米じゃから味わって食べるが良いぞ」


 ネタバレすると神米の生産者はメロだ。


 メロが育てた神米が美味しくないはずあるまい。


 それは逢魔家の食いしん坊ズが保証するので間違いない。


 3位の表彰が終われば次は2位の表彰である。


「次の表彰に移るのだ。2位は踏破タイムが29分56秒でモフ神のパーティーである!」


 ブラドが真奈モフ神の名前を告げてすぐに他の参加者達が盛大な拍手を送る。


 真奈達は伊邪那美の前に移動して姿勢を正す。


「ボスラッシュタイムアタック2位。”レッドスター”赤星真奈。其方は頭書の通り優秀な成績を収めたのでここにその努力を賞するのじゃ。おめでとうなのじゃ」


「ありがとうございます」


「2位の副賞はEG国のバステトから貰ったシストルムなのじゃ。この楽器によって奏でられる音は従魔を癒すじゃろう」


「う~ん、モフスメルのする良い楽器ですね! ありがとうございます!」


 シストルムとはマラカスのように振って音を鳴らす楽器である。


 真奈はバステトのおさがりのシストルムを授与され、バステトの匂いを感じ取ったのか嬉しそうにお礼を言った。


 その一方、真奈の隣にいるガルフがなんてことをしてくれたんだと言いたげな表情になる。


『伊邪那美様、なんで主人に危険な物を与えたんですか?』


「すまぬのじゃ。別に真奈だからあのシストルムを与えた訳でなく、2位に元々与える予定だったのじゃよ」


『これは偶然だったと仰るのですか?』


「残念ながらその通りなのじゃ。従魔とより一層仲を深めて貰える物をと思って用意したのじゃが、まさかこんなことになるとはのう・・・」


 ガルフが訴えたくなる気持ちもわかるけれど、伊邪那美はバステトにお願いして貰ったプレゼントを差し替えるのはバステトに申し訳なかったので、真奈にそのままシストルムを渡したのだ。


 真奈がモフモフし過ぎたらシストルムを使えば良いという発想にならないことを祈り、ガルフはウキウキしている真奈を連れて席に戻った。


「ではいよいよ1位の表彰に移るのだ。1位は踏破タイムが4分47秒で主君のパーティーである!」


 ブラドがそう告げた瞬間、いつの間にか大会議室内で参加者達を囲うように配置についていたホムンクルス達がクラッカーを鳴らした。


 他の参加者に祝福されながら伊邪那美の前に立つと、伊邪那美が藍大達を表彰する。


「ボスラッシュタイムアタック1位。”楽園の守り人”逢魔藍大。其方は2位以下を突き放す圧倒的に優秀な成績を収めたのでここにその努力を賞するのじゃ。おめでとうなのじゃ」


「伊邪那美様、ありがとう」


「1位の副賞は妾の娘、天照大神が丹精込めて作った天統べる勾玉なのじゃ。この勾玉があれば藍大の力が及ぶ範囲において天候を自由にできるじゃろう」


「おぉ、すごい。これで猛暑も快適に過ごせるじゃん」


 藍大は天統べる勾玉で真っ先に猛暑をどうにかしようと考えた。


 それにはリルも大賛成であり、藍大に頬ずりして甘える。


『ご主人、真夏でも過ごしやすい気温にしてね』


 サクラも藍大に抱き着き、天候を操れるのならと思いついたことを口にする。


「主、それがあれば紫外線の量も調整できる。いつまでも美肌でいるために協力してね」


 リルとサクラが甘えれば、自分だって甘えるんだと舞も藍大に抱き着く。


「お出かけの時は絶対に晴れるね~」


『主さん・・・日向ぼっこ・・・丁度良い・・・』


「そうだな。みんなの意見もちゃんと聞いてから使うことにする」


 舞に続いてゲンもリクエストするので、藍大はパーティーメンバーに優しい笑顔を向けて順番にその頭を撫でた。


 それを見て伊邪那美がやれやれと笑う。


「藍大達は本当に仲が良いのじゃ」


「逢魔家は仲良し。生物が呼吸をするのと同じレベルの常識さ」


 藍大はそれが当然なんだと言い切った。


 サクラと出会ってパーティーを組み始めた頃から、藍大達は一度も喧嘩をしたことがない仲良しパーティーだ。


 改めて藍大達が仲良しだと知れ渡り、表彰式はこれで終わった。


 ボスラッシュタイムアタックの打ち上げはバーベキューであり、参加者は順位のことを忘れて大盛り上がりだった。


 美味しいは正義であり、楽しい時間はあっという間に過ぎる。


 (家族がいればずっと楽しく暮らしていけるよな)


 藍大がそんな風に心の中で思うと、舞とサクラ、リル、それに他の従魔達も藍大の心を読んだのか集まって寄り添った。


 これからも藍大達の明るく楽しい生活はずっと続いていくに違いない。

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