第937話 エキシビジョンマッチをやろうか。ブラド、強いモンスターを召喚して

 真奈達を迎えに行った後、藍大はパーティーメンバーを連れて闘技場ダンジョンに向かった。


 藍大が連れて来たのは舞とサクラ、リル、ゲンであり、一枠残っていたが誰かを選ぶことはなかった。


 残りは誰を呼んでも自分は呼んでくれないのかとしょんぼりしてしまうからである。


 ブラドを呼べばそんなことにはならないけれど、闘技場ダンジョンを統べるブラドが藍大達と一緒にタイムアタックに挑めば不正を働いたと他の参加者が疑念を抱くかもしれないから、ブラドは藍大達と一緒に戦わない。


「それじゃ、10分以内の踏破を目指そうか」


「賛成~」


「了解」


『良いと思うよ』


 ボス部屋の前で藍大達は共通の目標を決め、それからボス部屋に突入した。


 1階のボス部屋は水場で待ち構えるアビスクラーケンだったが、黒いボディーに緑色のタイガーパターンの模様が浮かび上がっていた。


 藍大が視界に映し出したモンスター図鑑にはアビスクラーケンの”希少種”と出たが、藍大達のやることは何も変わらない。


「ヒャッハァァァァァッ!」


 舞が雷光を纏わせたミョルニルを全力で投げた先は水路だった。


 雷光が水にどっぷり浸かっているアビスクラーケンに感電し、アビスクラーケンはそのショックで中央の足場に打ち上げられた。


「オラァァァ!」


 次も舞が光を付与したオリハルコンシールドを全力で投げ、アビスクラーケンはオリハルコンシールドの直撃によって反対側の壁まで吹き飛ばされて力尽きた。


「藍大~、終わったよ~」


「お疲れ。回収して2階に進もう」


 藍大は舞を労った後、ブラドの力を借りて<完全解体パーフェクトデモリッション>を発動して素材をそのまま亜空間にしまった。


 解体と回収も含めて1階の滞在時間は1分かからなかった。


 これには大会議室にいる他の参加者達も口を開けてポカンとするしかなかった。


 こんなハイペースで進むって嘘でしょうと誰もが思ったのである。


 2階のボス部屋で藍大達を待っていたのは、緑色の反った角を2本を生やした黒いワイバーンだった。


 サイズは10tトラック大であり、赤い眼が藍大達を見てハートに変わる。


『お肉~!』


 リルは目をハートにしてダイブして来たフロアボスに対し、迷うことなく<雪女神罰パニッシュオブスカジ>で冷凍保存した。


 リルが一撃で倒したのは今まで一度も出番がなかったワイバイコーンだ。


 バイコーンの因子の混じったワイバーンであるワイバイコーンだが、既婚で子だくさんの夫婦を見ると家族丸ごと食べようとする習性を持つ。


 しかし、ワイバイコーンはその習性に基づく行動を取った時には既に冷凍保存されていた。


「リル、お疲れ様」


『ワッフン♪』


 ドヤ顔のリルの頭を一撫でした後、藍大は再びブラドの力を借りて<完全解体パーフェクトデモリッション>を発動して素材をそのまま亜空間にしまった。


 まだ大会議室の時計では2分30秒を過ぎたところで、藍大達のチャレンジは他の参加者達には刺激が強過ぎるのか誰も一言も発することができていない。


 藍大の従魔であるブラドですら、藍大達の探索ペースを目の当たりにして顎が外れそうなぐらい驚いている。


 3階にやって来た藍大達は色違いのズメイと対峙した。


 ズメイは緑色の三つ首竜の外見がデフォルトだったが、藍大達の前にいるのは紫色の三つ首竜だった。


 ズメイの”希少種”を前にしてサクラが一歩前に出た。


「私のターン」


 サクラがそれだけ言った後、ズメイの体が地面に押し付けられた。


 <一兆透腕トリリオンアームズ>でズメイを無理やり地面に押し付けたのだ。


 力いっぱい押し付けたこともあり、地面強く頭を打ち付けたズメイは大ダメージを負っていた。


 それでも力尽きてはいなかったので、サクラは<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を創り出し、サクッとズメイの三つ首を刎ねてしまった。


 これにはフロアボスを用意したブラドから藍大に苦情が来る。


『むぅ。主君達はおかしいのだ。なんで5分もかからず突破してるのだ』


 (5分かかってなかったか。正確なタイムを教えて)


『4分47秒である。モフ神の6分の1のタイムで踏破とか異次元過ぎるのだ』


 (舞達のおかげだな。俺は解体と回収しかしてないし、それもブラドの力を借りてのことだ)


『そう言われると吾輩も加担してないとは言えないのである。とはいえ困ったのだ』


 ブラドはテレパシー越しに困ったという念を藍大に送った。


 藍大のパーティーが優勝なのは間違いないのだが、あまりにも盛り上がりがなさ過ぎてなんとも言えないらしい。


 藍大もブラドが言わんとしていることを理解したため、ブラドに思い付いた考えを伝える。


 (エキシビジョンマッチをやろうか。ブラド、強いモンスターを召喚して)


『よかろう。少し待つのだ。大会議室の参加者達にも事情を説明するのである』


 勝手に藍大達だけで新しいモンスターと戦ってしまえば、大会議室にいる参加者達が置いてけぼりになる。


 ということで、大会議室に残ったブラドがこれから藍大達はもう一度だけ戦う旨を説明している。


 タイムアタックは既に終わっているが、いずれの戦いも一度か二度の攻撃で終わらせてしまったのでは藍大達が物足りないだろうし、見ている者達にとってももう終わりなのかとがっかりするだろう。


 ブラドの説明に大会議室の参加者達はもっとちゃんとした藍大達の戦闘を見たかったので、藍大が言い出したエキシビジョンマッチの開催を歓迎した。


 それからブラドが時間を貰って召喚したモンスターだが、澄んだ球体の見た目をしていた。


 見た目もド派手なモンスターを出してくるかと思えば、外見はシンプルなボスだったので藍大はモンスター図鑑を視界に展開した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:パラケルススコア

性別:なし Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,000/4,000

MP:4,000/4,000

STR:4,000

VIT:4,000

DEX:4,000

AGI:4,000

INT:4,000

LUK:4,000

-----------------------------------------

称号:3階フロアボス

   到達者

   固定砲台

   四大元素の支配者

アビリティ:<緋炎支配クリムゾンイズマイン><液体支配リキッドイズマイン><大空支配スカイイズマイン

      <森林支配フォレストイズマイン><拒絶リジェクト><痛魔変換ペインイズマジック

      <自動再生オートリジェネ><全激減デシメーションオール

装備:なし

備考:真球こそ至高のフォルムだ。異論は認めん

-----------------------------------------



 (ふーん、ちょっとは楽しめそうじゃん)


『吾輩、よく考えたら主君達に一度も勝ててなかったのだ。だから、吾輩のとっておきのモンスターで勝負なのだ』


 ブラドは藍大達にダンジョンのフロアを増築しては容易くクリアされ、”ダンジョンキング”にもかかわらず負け越していた。


 今のままではいけないと思ったため、ブラドはここで自分が”ダンジョンキング”になってから見つけたとっておきを召喚した。


 ブラドにとってこれから始まる戦いは、プライドを賭けた代理戦争なのである。


「さて、もう一暴れしようか」


「リル、背中に乗せな!」


『うん!』


 舞は戦闘モードに切り替わり、リルの背中に飛び乗った。


 舞とリルが組めばSTRトップとAGIトップが組むことになる。


 パラケルススコアは<液体支配リキッドイズマイン>で無数の水の槍を創り出し、それらを藍大達に落とし始めた。


 リルは<時空神力パワーオブクロノス>でひょいひょいと避けるから舞とセットで無傷だ。


「それ、悪手だから」


 藍大はそれだけ言ってゲンの力を借り、<液体支配リキッドイズマイン>で水の槍のコントロールを奪って、自分とサクラに襲い掛かるそれらをパラケルススコアに当たるよう誘導した。


「オラオラオラァ!」


 舞はリルに騎乗したまま、雷光を纏わせたミョルニルで水に濡れたパラケルススコアをガンガン殴る。


 パラケルススコアは<拒絶リジェクト>で舞を弾き飛ばそうとするのだが、リルに騎乗している舞をロックオンすることができず、リルの速度が威力に上乗せされた攻撃を一方的に喰らう一方である。


「サクラ、一気に決めておしまい」


「任せて主」


 藍大はサクラが攻撃できるタイミングで声をかけた。


 サクラは頷いた後、<運命支配フェイトイズマイン>でエネルギーを収束したレーザーを発射してパラケルススコアを撃ち抜いた。


 LUK∞の威力は圧倒的であり、パラケルススコアは力尽きて地面に墜落した。


『ぬぅ、パラケルススコアでも駄目だったのだ』


 テレパシーでブラドの悔しがる声が聞こえたが、藍大は自分のパーティーが最強なんだとドヤ顔を披露する舞とサクラ、リル、憑依を解除したゲンを順番に労うことに集中していた。


 戦利品の回収を終えた後、闘技場ダンジョンから戻って来た藍大達は他の参加者達のスタンディングオベーションで出迎えられた。

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