2譚目 これからのこと
「何かあれば、お申し付けくださいませ」
「ありがとうございます」
謁見の間から出た後、一人のメイドさんにとある一室に案内された。
正直、全くもって見たことがないような、豪華な部屋。
ベッドはクイーンサイズ、っていうのかな? それくらいの大きさだし、無駄にシャンデリアはあるし、いかにも高いです! みたいな雰囲気を醸し出しているタンスやらクローゼットやらがあって、ちょっとしたテーブルに椅子もある。
それから、壁には絵画も。
こんな部屋、一度も見たことがないというか……見たとしても、テレビくらいだよ? なにこれ?
え、もしかしてなんだけど、ボクってここに住むの?
え、えぇぇ?
内心かなり困惑。
というか、困惑しないわけがないです。
数十分前までは、見慣れた学園からの帰り道を歩いていたのに、いきなり異世界に飛ばされるし、その上通された部屋が、テレビとかでしか見たことがないような、豪華な部屋。
そんな部屋に通されたら、ごく普通で、どこにでもある一般家庭の男子高校生が混乱しないというのも変な話です。
ボク、なんでこんなことになってるの?
普通に未果たちと別れて、いつも通りに家路に就き、その道を歩いていたら、不意に視界が歪んで、意識が落ちて、女神様に会って、よくわからない世界のよくわからないお城にいて、そしたら魔王討伐をしてほしいと言われたから、考える時間をもらって、了承を得られたから部屋に通されたら……まさかの、すごく豪華な一室。
少なくとも、ボクが今まで暮らしていた自室よりも、圧倒的に広いんだけど。
逆に落ち着かないんだけど。
あと、これって本当に異世界転移なの?
……でも、さっきから瞼を閉じて、ちょっとだけ意識を集中させると、変なものが見えるんだよね……。
その変な物、っていうのは、
『イオ・オトコメ 男 十五歳
体力:60/60 魔力:200/200
攻撃力:12 防御力:10 素早さ:40
幸運値:7777
職業:未選択
能力:なし
スキル:『料理』・『裁縫』・『言語理解』
魔法:なし』
こんなのです。
これって……所謂、ステータスっていうものだよね?
異世界系やVRMMO系の作品に絶対と言っていいほどの頻度で出てくるあれだよね?
もしかしてなんだけど、本当に異世界?
……って、もしかしなくても、さっきから視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚が働いている時点で、疑いようがないんだけどね……。
試しに頬つねったら痛かったし。
……まあ、それはいいとして。
まずは、このステータスを確認するとして……。
「……もしかしなくても、ボクって弱い?」
自身のステータスを見た第一印象は、弱いだった。
この世界の基準がどれくらいかはわからないけど、絶対弱い。
攻撃力12って、RPGゲームに登場する主人公の最初の数値より低いと思うんだけど。
防御力なんて10だし……。
でも、素早さは40。
そう言えばボク、走るのはそれなりに速かったっけ。
ただ、数値の通り、腕力はなかったんだよね……。握力とか、中学三年生で24キロだったもん。
腕相撲なんて、未果にも女委にも勝てなかった。
体が頑丈かと言われると、全然頑丈じゃなかった気がする。
ボクって、筋トレしても全然筋肉は付かなかったから。
でも、足だけはそこそこだった。
まだマシ、かな。
あと気になる点があるとすれば、三つ。
魔力と、幸運値と、スキルって言う項目。
魔力に関しては、これ……どうなんだろう? いいのか悪いのかわからない。
でも、唯一三桁の項目だよね、これ。
もしかして、魔法を覚えたら使えたりするのかな?
ちょっとだけわくわくするかも。
次はスキルの方。
なぜか、『料理』と『裁縫』がある。
この、『言語理解』っていうのは、女神様と会った時に、習得したとか何とか言っていた声が聞こえてきたから、途中で手に入ったものなんだと思うんだけど……この『料理』と『裁縫』の二つは、習得した、っていう声が聞こえてきてない。
となると……ボクが普段から家事をしていた影響で、持っていた、っていうことかな?
だとすると、世の中の主婦のみなさんも持ってそう。
うん。じゃあ、そろそろ本題に入るとして……
「この、幸運値は何!?」
思わず声を出してしまうほどに、驚きの何かがそこにあった。
ちょっと待って? 魔力以外はことごとく二桁なのに対して、なんでこの項目だけ四桁なの!?
しかも、全部七!
そもそも、このステータスに表記されているあれこれがどういうものなのかわかってないから、この幸運値の意味もわからないんだけど!
それに、一番気になるのは、ステータスにある、この『能力』と『スキル』の項目。
え、同じじゃないの?
どう見ても、ほとんど同じような意味だよね?
なんで、二つあるの?
わ、わからない……。
女委や晶が言う、テンプレ、って言うのものから少しばかり外れているような気がする。
ここが異世界だと信じたい上で、女委が言っていたことを思い出すとして……。
たしか、
『異世界転生とか転移物って、大抵主人公はチート能力をもらってるんだよねぇー。でも、まれにもらってない人もいるんだけど……そう言う人って、実は何か強い何かが! みたいなところがあるんだよ。昨今、努力型主人公ってあまり優遇されてないしねー。仮に、そういった作品はあっても、修行過程はほぼほぼカットで、強くなったところから描かれるから。まあ、今時そう言う物はあると思っていいよー。リアルにあったら、どうなるかわからないけど、テンプレからは大きく外れないと思うぜ☆』
だったはず……。
…………………………すみません。ボク、なんにもないんですけど。
あるの、一般的な家事のスキルだけなんですけど。
もしかして、この二つが実はすごく強い、みたいな?
……ないね。ないない。
実際、『料理』でどうやって戦うの? 『裁縫』でどうやって戦うの?
無理でしょ。
……って、違う。そうじゃない。
今はちゃんと目の前のことを考えよう。
ボクがこの世界に来た理由は、女神様曰く、ボク自身だったから、っていう話。
でも、ボクには身に覚えはないので、多分……なんとなくで言ったことだと思っていいと思う。
そして、王様たちの言い分は、魔王の討伐。
魔王って、あれだよね?
『フハハハハハ! 逆らうものは皆殺しだ!』
みたいなことを平気で言ってきそうな人のことだよね?
……でも、ハッキリ言ってボクは弱い。最弱なんじゃないの? って言うくらいに、弱いと思う。
そんなボクが戦いに参加しても一瞬で天国に旅立っちゃうよ。
そう考えたらこれ……ボクが戦っても意味ないよね?
それならいっそのこと、断っちゃって平穏に過ごすって言うのも……あ、うん。ダメ。絶対ダメ。
その考えだと、ボクは二度と未果たちに会えないことになっちゃう。
それは絶対嫌だ。
未果だけじゃなくて、ちゃんとしたお別れも言えないまま、父さんや母さんとさよならするのも、絶対に嫌だ。
……王様曰く、帰るには魔王を倒すしかないとか何とか……。
「はぁ……しがない高校生だったのになぁ……なんで、こんなことに」
そもそも、ボクが来ても意味ないよ。
ボク含めたあの五人の中だと、ボクが一番非力だったしね……。
未果と女委の女の子二人にも腕相撲で勝てないし、純粋な腕力という意味でも弱かったし……。
ボクが勝ててる要素があるとしたら……なんだろう?
料理の腕前については何気に知らないし……裁縫だって、ボクよりできそうな気がするし……。
あれ。これ、もしかしてボク……何も勝てる要素がない……?
そ、そんな……ボク、弱すぎ……?
「魔王討伐……」
普通に考えて、今のボクだと無謀というより、絶対不可能としか言いようがない。
魔王がどれほどの強さかわからないし……そもそも、魔王って何? っていう疑問が出てくるし……というより、異世界って何? みたいな疑問も出てくる。
この際、そう言った疑問は一度後回しにするとして。
一番重要なのは、ボクがどうしたいか、だよね。
こっちの世界に来て、まだ数十分。
正直言って、まだ難しい。
この世界で取れるボクの行動は二つ。
一つは、魔王討伐に乗り出すこと。
もう一つは、いっそすべてを諦めて、こっちの世界で暮らすこと。
でも、ボクの考えだと、後者は論外。
さっき、絶対に嫌だと思ったばかり。
そうなってくると、前者になってくるんだけど……今のボクは最弱もいいところ。
なら、強くなるしかないんだけど……果たして、ボクが修行したところで、どこまで強くなれるか、だよね……。
あと、仮に魔王を倒せるレベルになったとしても、どれくらいの年月がかかるか。
どんなに長くても、三年で終わらせたい……。
……なんて思うけど、ボクは今まで一度も武術などの経験はない。
あったとしても、体育の授業にあったら、柔道とか剣道くらい。
……と言っても、全部負けちゃってたんだけどね。
ボク力弱かったしね……。
12って……。
ボク、非力すぎるんだけど……なんで、ボクがこっちの世界に呼ばれたのかわからない。
ボク自身だからと言っても、ボクには特別な力なんてないし、これと言った才能もない。
得意なのは、家事。
勉強も毎日ちゃんと予習復習とかしるけど、特に頭がいいわけでもない。
……あれ? これって、ボクには荷が重すぎない?
魔王だよ? テンプレだと、魔王ってすごく強いよね?
むしろ、ラスボスに設定されていることがほとんどの存在だよね?
そんな存在を、どこにでもいる一般的な男子高校生に討伐してもらうとか、無理じゃない? 武術経験のない非力な男子高校生に頼むのって、かなり無理があるよね?
……でも、魔王を倒さないと帰れないって言うし……。
抜け道もあるのかもしれないけど、あるような気配はなかった。
つまり、帰るためには魔王を倒さないといけないわけで……さらに言えば、ボクは相当非力だと思うから……うん。態徒風に言うなら、『何その無理ゲー』だね。
これがゲームだったら、評価☆一つ間違いなしだよ。
せめて、なんらかの力は欲しいんだけど、あるのは料理と裁縫だけ……これじゃあどうしようもないと思うんです。
って、違う違う。
結局のところ、ボクが考えないといけないのは、やるかやらないかだけ……。
できるできないはこの際置いておくとして。
こう、難しく考えるんじゃなくて、単純に行こう。うん。
今みたいに複雑な状況になったら、ボクがどう思うかだよね。
本質的な願いを思い浮かべればいいわけで……。
「……って言っても、難しいよね」
そう簡単に答えなんて出ない。
もう少し、時間が必要みたいです。
それから数日間、ボクは考え続けた。
そうして出た結論が、
「……うん、ボクはみんなに会いたいんだ。だから、できるできないじゃなくて、やるしかない、んだよね」
これです。
あれからずーっと考えました。
ちょっと優柔不断で、うじうじ考えちゃうボクだけど、目の前のこの状況に限っては、そうじゃなかった。
……いやでも、普通に二、三日はずっと考えてたから優柔不断、かも……?
でも、ボクがしたいことがわかった。
なんとしても強くなって、魔王を倒して、元の世界に生きて帰ろう。
「……そうと決まれば、王様の所へ行こう」
そう決めたらすぐに行動に移す。
ボクは、自分で決めたことを伝えるために、王様の所へ向かった。
そして、謁見の間。
なんで、謁見の間に王様がずっといるのかはわからないけど、とりあえず今日もいたので助かった。
ボクは謁見の間に入り、王様の前に立つ。
「して、イオ殿よ。答えは出たのか?」
「はい。……ボクは、魔王を倒したいと思います」
「本当にいいのか? 魔王討伐に行かず、どこか穏やかな場所で暮らすということもできるのだぞ?」
「ボクは元の世界に帰って、大切な人たちに会いたいんです。だから、そのために魔王を倒します」
「……そうか。わかった。しかし、ハッキリ言ってイオ殿は弱い。おそらくだが、一般的な農民よりも劣る」
……え、ボク、そんなに弱いの?
な、なんだか決めた覚悟が揺るぎそうなんだけど……。
「だが、安心するといい。イオ殿を強くするために、我が国の騎士団が訓練相手を務める。そして、騎士団長であり、人間最強と謳われるこのヴェルガ・クロードが直々に相手をしてくれる」
に、人間最強ですか……そう来ましたか……。
でも、それくらいの人じゃないと、ボクは強くなれない、よね。
うん。むしろ、願ってもないこと。
「わかりました。絶対に強くなります」
「そうか。覚悟は、できているのだな。……では、明日より訓練を始める! ヴェルガよ、後は頼んだぞ」
「お任せください。……イオ殿、よろしく頼む」
ヴェルガさんはボクに近づくと、ふっと笑みを浮かべて手を差し出してきた。
ボクは一瞬ヴェルガさんの顔を見て、軽く笑みを浮かべると、その手を握って握手をした。
ボクは、何としても強くなって、絶対に……家に帰ろう。
そう、強く思った。
異世界帰りの少年の前日譚 九十九一 @youmutokuzira
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