第3話 退職

 ナカムラは同僚から嫌がらせを受けて悩んでいた。嫌がらせというのは、たわいの無いことで足元ヒーターの利用を巡ってだ。建物が鉄筋コンクリート造で冬場はエアコンが稼働していても、お役所の建物であるためエアコン設定温度は低く設定してある。その為足元ヒーターが従業員一人一人に与えられているが、ナカムラの足元ヒーターは、高齢の先輩に奪われて利用させて貰えない。このことをボスに申し入れしたが、高齢先輩は「悪かった」もなく一人2台使いを続けている。我慢の限界がきたナカムラは、高齢先輩に「なんで僕に使わせてくれないんですか」と言ったところ、「はい、その発言パワハラね。ボスに報告します。」と言われ、数分後ボスから電話がかかってきて、「今日は帰って下さい。また明日以降は派遣会社から出勤了承が出るまで自宅待機でお願いします」と言われた。無論反論の余地はない。派遣社員のナカムラは、その指示に従うしかなかた。

 帰宅後、派遣会社の担当営業から連絡があった。「あの高齢先輩は病気持ちでヒーターが欠かせない。そして高齢先輩が「使わせる必要がないから使わせない」と言ったのに「使わせてくれないのは何故だ」の発言が高齢先輩にはパワハラと受け止められた。そして先方が「君と同じ職場で仕事したくない」と言っているので、出勤停止、つまり自宅待機に切り替える。」と告げた。背景に何があったのか何も検証せず、派遣社員という立場の弱さからナカムラは切り捨てられた。

 自宅待機になって、2ヶ月が経過した。新しい派遣先を担当営業に探してもらっていた訳だが、自宅待機になった理由が「パワハラ」という理由で受け入れ先が難航していると言われた。

 ナカムラは心に傷を負った。不眠、食欲不振、焦燥感に襲われ心療内科を受診することになった。なんに対しても興味が持てず、リクキングをしようと思っても集中できない。絶望さえ感じるようになった。

 ナカムラは派遣会社の担当営業に電話した。「退職します。必要書類をください」とだけ告げ電話を切った。

 そしてナカムラは派遣会社を退職し、実家へ帰った。だが心療内科の受診は完全予約制で飛び込みで受診できるものではない。病院によっては1ヶ月先になる診療所もあった。ナカムラは思った。本当に心が疲労しているのに診察が完全予約制で新規予約は1ヶ月先まで待機だと、自殺者が増えるだけなんじゃないのか、そう思った。 

 ナカムラはハローワークで失業に関する手続きを済ませた。同時に職業訓練を考えたが、これといった訓練ではなかったので見送った。

 今後の展望が全く見通せないが、前を向いて生きていくしかないそう心に誓ったナカムラだった。そしてもう二度ど派遣会社で働かないとも心に誓った。

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派遣社員ナカムラの憂鬱 中野まさよし @masazo19741029

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