海野くんの隠された特技

 片海高校テニスコート。ここにはたくさんのギャラリーが集まっていた。

『叶さ~ん! 頑張ってぇ!』

『鬼畜クソ外道眼鏡なんかに負けないで!』

「ええ、お任せくださいみなさん。この小笠原叶! 学園に巣食う悪漢を成敗してやりますわ!」

 小笠原の言葉にギャラリーから歓声がでる。

 それを見ながら真田はジャージを着て準備運動をしている海野に話しかける。

「あちらさん、えらく盛り上がってるなぁ」

「何せ正義の女騎士さんの相手が悪名高い詐欺師らしいからな」

「いや⁉ 海野くんそれ自分で言っちゃうの⁉」

 遥香が思わず突っ込むが海野は気にした風はない。

 そして海野は準備運動をすませるとコートに向かって歩いていった。それに気づいた小笠原もコートに向かって歩いている。

 それをみながら遥香は自然な足取りで真田に近づき隣に立つ。

「海野くん勝てるの? 自信はあるみたいだけど」

「あいつは性格クソだから負ける賭けはしないよ」

「でも、叶は強いよ」

「ああ、小笠原さんは間違いなく強い。何せあんなに足が綺麗だ。それだけじゃなく身体全体のバランスが美しい。胸は壁だけど、それも彼女を引き立たせる魅力になってる」

 小笠原を絶賛する真田に遥香は若干イラっとして、スカートを少しだけあげて真田からパンツがちょっと見えるようにする。

 その瞬間に遥香の足の間に真田の頭が滑り込んできた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

「おぉぉぉっと足が盛大にすべったぁぁぁぁぁっ! これは事故! 事故なんだよ遥香! だからポリスに通ほげぶっふぅ!」

 決め顔で遥香のパンツを真下から覗いてなにやら言い訳をしていた真田はテニスボールが顔面にヒットしてモップになった。

 そしてボールを真田にスマッシュヒットさせた張本人である小笠原は顔を真っ赤にしながらぷるぷる震えてラケットで真田をさしている。

「変態ですわ! 信じられませんわ!」

「ええ、本当に信じられないわ」

「まぁ! 珍しく木曽さんはこちら側ですのね」

 小笠原の言葉に綴は真剣な表情で頷く。

「本当に信じられないわ。私は長秀くんにあれだけ堂々とパンツを覗かれたら『プロポーズを受けた』ということにして式場の予約をするわ」

「何を言ってますの⁉」

「遥香、それだから貴女はダメなのよ」

「く、恥ずかしさが先にきちゃったから……」

「遥香、それが正しいですのよ⁉ 木曽のほうがおかしいのですのよ⁉」

 悔しそうにいう遥香に大声で突っ込む小笠原。圧倒的に正しいのは小笠原のはずだが、何故かこの場ではおかしいのは小笠原な空気になっていた。

「お~い、やらんのか?」

「あ! く……! 私の集中力を乱す作戦ですのね! 悪辣な真似を!」

「いや、バカが変態行動をとった結果お前が勝手に集中力を乱されただけだんだが」

「あれは普通乱されますわぁ!」

 海野の言葉に思わず小笠原が叫んでしまう。

 しかし、呼吸を一度整えてから小笠原はずびしと海野を指差す。

「この鬼畜クソ外道眼鏡! 私が天に変わって成敗してやりますわ!」

「今までの流れで俺が罵倒される理由なくねぇ?」

 少しの間。

「……成敗してやりますわ!」

「お前、一瞬認めたろ」

「成・敗! してやりますわ!」

 顔を赤らめながら綺麗な金髪を翻してレシーブポイントにつく小笠原。

「サーブは俺でいいのか? 1セットマッチだろ?」

「ふ、手加減ですわ。いくら男子とは言えテニスは素人。故に有利なサービスは貴方に差し上げますわ」

「いや、素人だったらサーブ入らないだろ」

「……………あ」

 海野の突っ込みに今気づいたかのような表情を浮かべる小笠原。そしておたおたしながら海野に話しかけてくる。

「た、確かにそうですわ。あの、でしたら私がサーブにしましょうか?」

「まぁ、俺はテニス経験者だから余計な心配なんだが」

「貴方本当にクソですわね!」

 心配したら逆に煽られる結果になった小笠原は顔を真っ赤にして怒る。

 その様子をみながら遥香はようやく起き上がった真田に話しかける。

「でも大丈夫なの?」

「なにが?」

「いや、海野くん。今の会話でテニス経験者っていうのはわかったけど、叶は普通に関東レベルだよ?」

「あ~、それだったら問題ないだろ」

「え?」

 そんな会話をしている間に試合が始まる。

 そして海野の超高速サービスが決まる。

 静まりかえるテニスコート。ボールをもてあそびながら次のサーブの準備に入る海野。それをみながら真田は口を開く。

「あいつ元々男子テニス全国一位」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!』

 真田の言葉に遥香だけじゃななくその場にいた全員から驚愕の声がでる。

 それに補足説明するように綴が銀髪を靡かせて説明を始めた。

「長秀くんは小学生時代からテニスの天才と知られていたわ。それが中学生の時に小説家を志してお姉さん……海野先生と大喧嘩。海野先生が『全国一位になったらやめていい』っていう約束をかわして見事に中学生の時に全国一位になったの。今でも全国区のプレーヤーだけじゃなく、プロのヒッティングパートナーも務めるほどよ」

「それを知りながらテニス勝負にしたの木曽さん鬼でしょ」

 真田の言葉に百%笑顔イイ笑顔を浮かべる綴。

「悪いわね叶、貴女は友人だけど長秀くんのためなら犠牲にするのを私は躊躇わないわ」

「木曽! 貴女最悪ですわね!」

「ほれ、さっさと次のレシーブ位置につけ優等生。それとも棄権するか?」

 海野の煽りに悔しそうな表情を浮かべる小笠原。

「この小笠原叶! 逃げるような真似はしませんわ!」

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片海高校文芸同好会 惟宗正史 @koremunetadashi

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