ねくすと にゅ~ ひろいん

「よく来たな小笠原。まぁ、そこに座れ」

「なんですの……⁉ 歓迎さえれているはずなのに警戒心がとけませんわ……!」

「警戒されている海野マジワロス」

「貴方も服を着なさい!」

「「「え?」」」

「なんんで遥香まで不思議そうなんですの……!」

 真田の全裸に律儀に突っ込みをいれる美少女。

 髪型・金髪縦ロール

 家柄・母方はイギリス貴族、父は大グループ企業の会長という名実共にお嬢様

 外見・美少女

 胸部装甲・悲しくなるくらい平

 まさしく真田の希望したヒロインの大半を認めた少女、彼女は小笠原叶といった。

「小笠原さん、君にお願いがあるんだ」

「全裸からのお願いの時点でお断りしますわ」

「全裸の何が悪い!」

「そっちで怒るんですの⁉」

 真田の初手お願いをバッサリと断る小笠原。そして理由を聞いて激昂する真田とそれに対してドン引きする小笠原。

 残念ながらドン引きされる真田は珍しい姿ではなかった。

 気持ちを落ち着けるように真田は一度深呼吸をすると小笠原の両手を掴む。

「キャア!」

「ぶげら!」

 そして腰の入ったいい右が真田の腹に吸い込まれた。

 床でびくんびくんする真田を信じられないものをみる目で見ながら小笠原は叫ぶ。

「と、突然婦女子の手を掴むなんて信じられませんわ! 赤ちゃんができたらどうするんですの⁉」

「「「え?」」」

「え?」

 三人のマジかこいつ的表情に、逆に何かおかしなことを言ったかと首を傾げる小笠原。

 そして代表して遥香が口を開く。

「叶、赤ちゃんってどうやってきるか知ってる?」

「む、バカにしないで欲しいですわ!」

 そして悲しいくらいにまったいらな胸を張りながら小笠原は口を開く。

「異性と手を繋いだらコウノトリさんが運んできてくれる……常識ですわ!」

「こいつに小づくりの仕方教えたらどうなるのか実験してみたくなるな」

「無知シチュ……ありだな!」

「二人とも! 叶は本気で言ってるんだから茶化しちゃだめ!」

 現役JKとは思えない発言をする小笠原に速攻で外道好意を働こうとする文芸同好会会員の二人。そして遥香は母親のように二人を叱った。

「で? 小笠原は何か用事でもあったのか?」

「用事がないと貴方達みたいな変態の巣窟にきませんわ」

「はは、海野がぼろくそに言われててワロス」

「は? お前のことに決まっているだろうがこの全裸」

「どっちもですわ」

「「そんなバカな」」

 心底不服そうな顔をする真田と海野。

 それをみながら用意したお茶を小笠原の前に置く遥香。

「それで叶、どうかしたの?」

「遥香……」

 小笠原は一度目を瞑ると勢いよく開いて立ち上がり、真田と海野を指差す。

「遥香を解放なさい! この変態供!」

「待って叶! どういうこと⁉」

「遥香、同じテニス部の友人でもありライバルでもある私に相談できないほど追い詰められて……! ですが安心なさい! この小笠原叶、小笠原家の名誉に賭けてもあなたを助けてみせますわ!」

「大部分がどういうこと⁉」

 話が飲み込めずに動揺するしかない遥香。そして勝手にヒートアップして罵詈雑言を二人に飛ばし始める小笠原。

 罵詈雑言を飛ばされることに慣れている真田と海野は二人でスクラムを組む。

「海野、どういうことかわかる?」

「おそらくは村上が俺達に脅されて同好会に来ていると思っているようだな」

「なら、俺に任せてくれ」

 そして真田(全裸)は自信満々に小笠原の前にでる。

「キャア!」

「ポチョムキン!」

 そして小笠原は顔を真っ赤にしながら真田のコカーンを蹴り上げた。

「信じられませんわ! なんで全裸で女性に話しかけられるんですの!」

「すげぇ、そんな正論を真田にかます奴初めてみた」

 海野の言葉も最もである。基本的に学校内外を問わず全裸でいることの多い真田はこの街では全裸でいることが受け入れられている。なにせ警察の研修の一つとして『街中で全裸の不審者に会った時の対処法』に呼ばれるくらいである。

 つまり真田が全裸でいることのほうが普通であるのだ。

 床で「ふぉぉぉぉぉぉぉ」と唸っている真田をみないようにしながら小笠原は海野に向き合う。

「遥香を解放なさい! 彼女はテニス部のエースにしてこの私のライバル! 決して他の部活に渡さないわ!」

「小笠原だったら木曽のほうをライバル視しろよ」

「どういうことですの⁉」

「天正壬午の乱ってことだ」

「本当にどういうことですの……⁉」

 海野の言葉に混乱倍率ドンになる小笠原。

 しかし、即座に首をふると指をつきつける。

「そこまで言うなら勝負ですわ!」

「断る」

 海野のあまりの返答に小笠原が虚を突かれた表情になる。

 そして海野は畳みかける。

「村上の奴が自ら進んでここにやってきている現状、お前との勝負を受ける利点が一切ない」

「遥香、貴女自分から進んでここにやってきているんですの⁉」

「え? う、うん」

 真田の腰をトントンと叩いていた遥香が小笠原の勢いに押されながらも頷く。

「なんてこと……」

「まぁ、村上の件は納得できたみたいだから」

「脅迫をして遥香を脅すなんて……! 日本男児の風上にもおけないですわね……!」

「さては貴様も話を聞かない輩だな?」

 完全に遥香は脅されてこの同好会に参加していると思い込んでいる小笠原。

 実際のところは想い人の外堀を埋めるべく奮闘中である。

 そして再び小笠原は海野に指をつきつける。

「勝負ですわ!」

「それと勝負すべきなのは俺じゃなくてそっちで股間を抑えているほうだろ」

「勝負ですわ!」

 海野の言葉にもめげずに海野指差し続ける小笠原。顔が赤くなってるのをみるに全裸を視界にいれたくないらしい。

「話はきかせてもらったわ」

「帰れ」

「貴方のところが私の帰るところよ、ダーリン」

 初手追い返しにも敗けずに海野に優しく微笑む綴。

 秒速百連発の舌打ちビートを聞き流しながら綴は小笠原と向かい合う。

 警戒した様子を隠さない小笠原。妖艶に微笑む綴。

「叶、勝負をするなら何か対価が必要よ」

「対価、ですの?」

「ええ。貴女は文芸同好会から一方的に会員を奪おうとしている。それはフェアじゃないんじゃないかしら」

「むむむ」

 綴の言葉に難しい表情を浮かべる小笠原。

「叶、もし勝負に敗けたら貴女は文芸同好会に入りなさい」

「なぁ⁉ 私がこの変態の巣窟に⁉」

「あら、勝負内容はテニスよ? 貴女の得意分野。それともやっぱり男子には勝てないって白旗挙げる?」

 綴の言葉に顔を真っ赤にして怒鳴る小笠原。

「この小笠原叶! 勝負から逃げる真似はしませんわ!」

(ちょろいな)

(わぁ、ちょろい)

(叶……綴に乗せられちゃってるよ……)

 あまりにちょろい小笠原に三人から生暖かい視線が向けられる。

「で? 木曽、うちが勝負を受ける利点は?」

 海野の問いに綴は手を開いてみせる。

「私、長秀くん、真田くん、遥香、叶の五人で同好会が部になって部費がでるようになるわ」

「乗った」

 どこまでも打算的な海野であった。

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