アイドル・ベィビィ

 私は1歳を超えた。


 さて、生まれて初めての収録の日。

 興奮していた、共演者の堂本勝呂と初めて顔を合わせた。

 第一印象は幼児だった。

 この幼児があのアイドル堂本勝呂になるのだ。

 あの驚くほどの才能はまだ全く開花していない。

 今の出演回数の多さは母親や芸能事務所の努力だろう。

 こんなに小さいのに有名になって行くのは、周りの努力の賜物だろう。


 さて、創作ダンスだが、今回は自由に踊らせてくれるらしい。

 つまり、CM用に使える部分のみ切り取ると言うことらしい。

 ははははは、私に出来ない踊りはない。


 今回のCMである製薬会社にピッタリの踊りに仕上げてやろうじゃないか!!


 私は踊り続けた、堂本君が疲れて休んでいる間も踊り続けた。

 最終的に2時間くらい踊り続けた。

 いや、数回5分程休んだけどね。


 踊った踊った、最後まで踊りやり遂げた感で満足した。

 その日のお昼はお弁当だったのだが、その部屋に入るとお菓子もいっぱい置いてあった。


 流石だ、堂本勝呂の母親は、うちの母親にもお土産を持ってくるほど気が利いていた。

 芸能界という荒波に子供を輩出する親の姿なのだろう。


 うちの親は全くそんなことは気が付いていないようだけどね。


 とりあえず、疲れて電池切れ状態で帰りのタクシーの中で寝ていた。


 その日の晩御飯は私の好物が食卓に並んだ、嬉しかった。 

 お金をもらっても使えないもんね、ここは食欲だ。


 お母さんは親戚中に電話しまくっていた。

 本当に嬉しかったようだ、なんか親孝行したような気がした。


 前回の人生では私はお母さん達を残して亡くなっているのだ親不孝だよね。


 でも、驚いたのはそのCMの効果だった。


 翌日から大変な騒ぎとなった、次のオファーが来るわ。

 お母さんが私を町に連れて行けば人だかりができるわ。

 最後には所属タレントに成りませんかと芸能事務所から連絡が来る始末。


 週刊誌は天才ダンサー現るとか書いてある始末だ?

 実はCMの元ビデオは海外にも紹介され流れた様だった。


 うんっ?少し目立ち過ぎかな?


 そう思っていると、案の定チャチャ坊から連絡が入った。


「おばちゃん、なかなかの人生のようでちゅね」


 声だけのチャチャ坊だ。


「お陰様でね、大変だわ」


「普通資格が無いとやり直しはできないでちゅ。

 それなのにおばちゃんが、やり直しボタンを押ちて

 人生のやり直しが出来た理由が分かりまちたよ」


「理由?

 私が若くして死んだので神様が可愛そうだと思ったんじゃないの?」


「おばちゃんには、生き返る資格は無かったようでちゅ」


「えっ、でも生き返ったじゃない」


「おばちゃんが生き返ったのは、おばちゃんを助けようとちて、命を落とした人のお陰でちゅ」


「どういうこと?」


「簡単に言えば死んではいけない人がおばちゃんを助けようとちて、おばちゃんと一緒に亡くなったのでちゅ。

 その人にやり直し人生が認められたのでちゅよ。

 そしてやり直し目的がおばちゃんを助けることでちた。

 なので、おばちゃんもやり直しが認められたと言うことでちゅ」


「えっ、その人って誰なの?」


「それは条件として教えられないのでちゅ」


「それでね、もしおばちゃんの人生がその助けようとする人と離れてしまうとね、まずいのでちゅ」


「なにがまずいの?」


「例えばその人と遠く離れるとその人はおばちゃんと合えなくなる可能性があるでちゅ。

 そうなるとその人は前回死んだ歳に自殺して死ななければならないでちゅ。

 もちろんおばちゃんも病気や事件に巻き込まれて死んでしまうのでちゅ

 逆におばちゃんを助けることが出来れば二人はその後の人生を生きることを許されるというご褒美をもらえるのでちゅ」


 驚きだった、やり直しって言うからてっきり同じ歳に死ぬんだと思っていた。

 でも私は前の人生よりも長く生きることが出来るかもしれない。


「誰なのか分からないと・・・、お願い教えて、そうだ、男か、女か、年下なのか、年上なのか?それだけでも教えて?」


「これはその人のやり直し条件だから出来ないでちゅ、

 おばちゃん、あまり前回の人生から逸脱しないようにいきてくだちゃいね、ではまたね」


「ちょっと、待って、教えて、何も知らないんじゃ対応できないから困るの」


 チャチャ坊は自分の言いたいことだけ言って、行ってしまった。


 私のやり直し人生は、私の物では無かった。

 待ってよ、私の人生じゃないの?


 じゃあ、誰のために生きろというの?


 そんなの勝ってよ。


 でも、私を思ってくれている人が居る。

 そう今も私を助けようと、いや、若くして死んでしまわないように生まれ変わっている人が居る。


 そう思うと、胸が熱くなる。


 『やり直しボタン』 押してよかった。

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やり直しボタン 茶猫 @teacat

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