彼女とトイレと俺。
現在俺は、自分が通っている学校の旧校舎にある女子トイレの前にいる。
確かにこれからその女子トイレに入る訳だが、別にやましいこととかどこぞの変態&変人がやりだしそうなことをする訳ではない。
一応この中にある人物がいるのだが、ちょっと特殊な呼び方をしなければならず、また読んだ後どう言う被害が起きるか分からない。
だから今は少し呼吸を整えるために立ち止まっていた。
「…………よし」
やっと心の準備を整え、女子トイレへと足を運ぶ。
中はトイレにある汚水や洗面所の下にあるコケ達が腐った卵みたいな匂いを出していた。
その空気の中、俺はあまり呼吸せずにこう叫んだ。
「――――花子さーん」
「はいはいなんでしょうなんでしょう!? この女子トイレに入ってきた変態さんはどこでしょう私には何のようなんでしょうか!? 特に意味は無い? おおそれは困ったなあ。でも私は最近人を困らせる性癖が少しずつ芽生えて来ててね――」
「とりあえずストップだ花子さん」
相変わらずのテンションだなおい。
どうどう、と手のひらを彼女に見せて落ち着かせようとするが、それでも彼女は笑顔で言葉を重ねまくる。
「だってだってこんな風にテンション上げないと私寂しくて死んじゃうよ? うさぎさんなんだよ? だから今日もどがんどがんと大砲撃ちまくるように言うのさ!!」
「おかげで俺、大砲の球当たりまくって死にかけてますけどね!!」
「おお……! 私の胸のうちから輝いているのは……まさか恋?」
「多分変の間違いだこの変態花子」
彼女のガトリング大砲の威力は相変わらずで、なんで今日もここに来てしまったのだろうと思うぐらい後悔している。
でも反面になぜか今日もそんな彼女の姿を見てほっとしているので、なんだかよくわからないな。
目の前にいる彼女は、人間じゃなくてこのトイレとかで彷徨っている有名な花子さん。
最初に遭った頃は、自分の中で描いていたイメージとはかけ離れていて、驚いてしまい、腰が抜けてしまった。
確か……夏休みのとき、ジャンケンで負けて罰ゲームで夜の旧校舎に入った時だ。
そこで彼女に遭って、テンションがやたら異常に高いので色んな意味でついていけなくなってしまい、とりあえず落ち着いて話しましょう、ということになって話しているうちになんだか楽しくなってしまいこうして毎日……とはいかないが週に一回こうして来ている。
だけどいくら楽しかったからと言って彼女のガトリングを受けるには、俺の精神力じゃ足りやしない。
漫画やラノベなどでやたら無駄にテンションが高い奴はいるがまさか実際するとは思わなかった。
「ということで飴くれ!!」
「はぁ? 毎回欲しがるよなそれ」
ポケットから小さな飴一粒彼女に差し出す。ちなみに味はぶどう味と定番のものだ。
彼女は嬉しそうに受け取ると、口の中に入れ、舌を上手に使って転がしている。
その間、俺はこの臭い女子トイレの中を消臭剤を持ってきたバックの中から取り出し、呼吸がしやすいようにした。
「その飴、そんなに上手いのか?」
「うん、美味しいよ~私が生きていた頃にはこんなもの高かったし、それが今じゃあおねだりすれば手に入るなんて夢のようだよ」
「……おい」
それからして飴に夢中だった彼女は、口の中にあったものが全部溶け出すことを確認すると、トイレの空気が綺麗なことに驚き、また喜んで深呼吸を五回ぐらいした。
「いい香りだね~」
「そうか? ならこれ一本やるぞ」
すると彼女は顔をキラキラと輝かせて、
「本当か?」「本当だ」
俺の手にあった消臭剤をすぐさま奪い取り、もう一度振りまこうとするので慌ててやめさせた。
「なんでやめさせるのさ~」
「これ以上振りまいてもあまり意味ないぞ? 毎日この臭い匂いと戦うならいいが」
すると彼女はぷく~と顔を膨らませ、不満があることを主張していた。
「…………毎日この匂い嗅いでいたら幸せ過ぎておかしくなりそうだもん……」
「え、なんか言った?」
「何も言ってないよ!! このあと君をどういじめようかと考えている訳じゃないよ!! あ、口滑った!!」
「お前なあ…………」
彼女がいたずらを考えていることは毎回のことだけど、なかなか怒れない。
だから毎回酷い目に遭ってしまっているのだけれど、それでも憎たらしくは思わない。思えない。
「うう~今日はいたずらできないか……バレちゃったし」
「……いやいや結構前からバレているから」
逆になんでバレないと思っていたのかが不思議で分からない。
彼女は顔を硬直させて、
「いつから!?」
「…………一ヶ月ぐらい前から?」
「うわあああああああああぁああああああああああああ」
手で目を抑えているが、泣いたふりしても意味は無いと思うぞ。
「チッ、ばれたか」
「バレるわ」
何がしたいんだお前は。
でも今日も彼女が暴れて笑っている姿を見れば今のところ満足だ。トイレの中じゃあ俺だったら寂しいと思うから彼女の場合は毎日で、慣れちゃっていはいるのだろうけど、それでも寂しい感情は少なからず持っているはずだ。
それが少しでも無くせればそれでいい。それに俺も彼女と話すのは別に嫌でもないし、逆に楽しい。
そして俺は、彼女が疲れて姿が見えなくなるまで彼女の話相手をした。
短編集 蒼山詩乃 @aoyamashino
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