挨拶婆さん

安良巻祐介

「挨拶を安売りするな」と通勤路の途中に立って、朝、やかましく呼びかけている婆さんは、高そうな着物で、数珠をやたらと多くじゃらじゃらと提げて、誰のかわからない真新しい位牌を幾つか体の周りに設置して、それらを指さしながら、その呼びかけをやっている。一年に十何度か立っている。道行く人々は慣れたもので、みんな婆さんがそこにいないかのように行き過ぎてゆくが、どうも自分が気づいた事には、婆さんの周りの位牌の数が、見かける度に増えていくらしい。数えたことはないが、数えたらいよいよ取り返しがつかなくなる気がして、そして、もしかしたら婆さんが見えているのは、自分だけなのではないかとも思われ出して、最近はなるべく関わることを避けている。

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挨拶婆さん 安良巻祐介 @aramaki88

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