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空は、もう暗くなりかけていた。
達則は無言のまま、空をながめていた。
その隣で亜依奈は、ぐちぐちと達則を責めた。
「勝ってたじゃん、あれ絶対勝ってたじゃん。
あんな余計なことしなければ、どー考えても勝ってたじゃん。
ヴィー取れてたじゃん、もったいない。
なんであんな余計なことしたのよ。
ねえ、聞いてんの達っちゃん」
亜依奈はぶーたれた顔で達則の顔をのぞき込んだ。
達則は空を見ながら、ぶっきらぼうに返した。
「玉入れの、リベンジをしたかったんだよ」
亜依奈はけげんな顔をした。
それから、あきれたようにこぼした。
「玉入れって。
まさかスリーポイントをはずしたから、もっかいあそこで挑戦しようとしたの?
そのために、むざむざヴィーを手放したっていうの?
アホじゃん」
達則は何も返さなかった。
二人の耳に、誰かが走り寄ってくる音が聞こえた。
亜依奈は振り返った。
そのとき、横から達則の声が届いた。
「ごめん、ボク先に帰るよ。後はまかせる」
亜依奈は顔を戻した。
そのとき達則は、もう走り出していた。
「ちょ」
亜依奈が止める間もなく、達則は一気に走り去ってしまった。
見えなくなった背中を見つめながら、亜依奈は口をとがらせた。
「なんなのよー、もうー」
それから、足音の主は声をかけながら亜依奈のそばに寄った。
亜依奈は顔を向けた。
それは先の友人だった。
友人は何か大きな荷物を持って、肩で息をしながら亜依奈に言った。
「達則のヤツ、準優勝の景品置いてっちまったんだよ。
亜依奈、家近いだろ。
悪いけどこれ、持ってってくれよ」
そして友人は、荷物を差し出した。
それは玉入れのときに亜依奈が求めた、ウマのポーさんのぬいぐるみだった。
亜依奈はぼうぜんとした顔をして、そのぬいぐるみを受け取った。
友人は腕を組んで、独り言のように喋った。
「まったく達則、なーんであんな無意味な後退しちまったかね。
あれがなきゃ絶対勝ってたぜ、あの試合。
バカなことしたよなーアイツ」
亜依奈は何も言わずに、じっとぬいぐるみの顔を見つめていた。
やがて、亜依奈はふっと笑った。
亜依奈は顔を上げた。
その顔から満面の笑顔をこぼしながら、亜依奈は返した。
「うんっ、バカだよね!!」
そして亜依奈は走り出した。
ぬいぐるみを右手で振り回しながら、その長身を軽快に跳びはねさせて。
駆け抜ける屋台の列は、初日の後片づけをしていた。
誰かが天気予報を見て、明日は晴れると伝えた。
それに呼応して、別の誰かが笑顔を見せた。
大学祭は、明日も続く。
その期待をからめ取って、ツインテールがくるりと舞った。
スリーポイント 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker
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