あなたが新しいことを考えたいなら町を出ていけ!

ちびまるフォイ

今がずっと続けばいいのに

「今日は取材の協力をありがとうございます」


「いいんですよ。我々の完璧で完全無欠のシステムを紹介できるのは光栄ですから」


「完全無欠、というと?」


「私達の町では100%リサイクルを実現しているんです。

 消費した資源はすべて還元しています。プラスマイナスゼロ。

 まさに完璧なシステムでしょう」


「ははぁ、それはすごいですね」


「さあ、こちらも見てください」


インタビュワーが案内されたのは町の洋服屋さんだった。


「どうです? これぜーんぶ、リサイクル品なんですよ」


「すごい! 新品にしか見えません!」


「私達の町ではどんなにボロボロでも、

 すべて新品同然の状態に作り変える技術があります」


「デザインは……なんだかちょっと古いですけど、現代っぽいのはないんですか?」


インタビュワーの言葉に市長は露骨に嫌な顔をした。


「現代っぽい? なんですかそれは」


「今っぽいものですよ。ここにある服はずいぶん昔に流行ったものばかりで……」


「今っぽいものを取り入れる必要がどこにあるんですか!?

 ここにあるものはすべて多くの人から愛されて支持されてるデザイン!

 今っぽいデザインにしたらみんな嫌な顔するに決まってるでしょう!」


「そ、そうですね。ごめんなさい失言でした!」


「そうでしょうね、反省してください! まったく、何が新しいデザインだ……」


市長がぷりぷりと怒ってしまったので、インタビュワーは町を自由に見て回ることにした。


すると、町の片隅で喪服を着た人が談笑していた。

葬式とは思えない明るい空気感に興味をそそられたインタビュワーはそこへ向かった。


「あの、どうしてみなさん、そんなに楽しげなんですか」


「え? そりゃまあ親戚が久しぶりに集まるんですもの楽しいに決まってるでしょう」


「葬式ですよね? 人が死んでるんでしょう?」


「あはは。あなた変なことを聞くのね。町の外の人?」


「ええ……まあ」


「ほら見てなさいな」


指さされた先ではちょうど死体が焼却されて灰になっていた。

まもなく灰の中から赤ちゃんのうぶ声が響き渡る。


「なっ……なんで赤ちゃんが!?」


「私達は新しい命ではなく、既存の命をずっとリサイクルしてるのよ。

 悪い人はリサイクルされないから町にいる人はみーんな善人よ」


「この赤ちゃんが成長したらどうなるんですか」


「さっき死んだ人になるわね。ああ、でも前世はちょっと気難しいから

 そこを改良するために子供のときからはちゃんと教育するつもりよ」


「なんだかすごいですね……」


「得体のしれない新しい人間が生まれてくるよりも、

 勝手知ったる人間が輪廻転生してきたほうがなにかと都合がいいのよ」


この町における葬式は人の別れを惜しむものではなく、

むしろ誕生や可能性を得る機会だから明るい雰囲気だったのかとインタビュワーは納得した。


その後も、インタビュワーは町をぐるりと取材して回った。

町の誰もが幸せそうにしていて、これからもずっと続くと安心していた。


取材が一段落してランチを取っていると、ひとりの子供が声をかけてきた。


「あんた、外の人?」


「え? うん。そうだよ」


「教えてくれよ。外の世界はどうなっているのか知りたいんだ」


「どうしてそんなことを……」


「この町じゃテレビは昔の人気番組の再放送だけ。

 服も、ゲームも、漫画も、小説もすべて昔の焼きましなんだ。

 俺は外の世界を知りたい。新しいものを知りたいんだ」


「そうだったのか……。じつは私は"あたらしい町"の出身でね。

 そこではいつでも新しいものばかりを消費してリサイクルを絶対にしない場所なんだ」


「新しい町……!」


「でもこのままじゃ立ち行かなくなるから、こうしてリサイクルだけでやっているこの町へ取材に来たんだよ」


すると少年は目を輝かせて懇願した。


「お願いだ! 俺をその町に連れて行ってくれ!!

 こんな成長も進歩も革新もない場所にいるのは耐えられない!」


「進歩もないって……そんなことはないんじゃないか?

 取材してわかったけど、昔よりはずっと便利になっているんだろう?」


「マイナーチェンジを繰り返すのは進歩じゃない!

 俺はもっと新しい技術を受け入れてくれる場所に身を置きたいんだ!」


「うーーん、君には残念だけど、あたらしい町には連れていけないよ」


「どうして!?」


「あの町ではあたらしいもの以外は受け入れられない。

 すでに別の町で生まれ育った君は"あたらしい"ではない。

 既存の人間だからあたらしい町には入れないんだよ」


「そんな……!」

「力になれなくてすまないね」


「ふざけんな……それじゃ俺は一生この過去から脱却できない場所で、

 延々と自分を輪廻転生しながら過ごさなきゃいけないのかよ!」


少年は叫んだ後、どこかへ去っていった。

その日の夜に町全体にけたたましいサイレンが鳴った。


「なにごとですか!?」


「た、大変だ! リサイクル中枢ターミナルが破壊された!!

 もうこの町ではリサイクルができなくなってしまう!!」


資源のリサイクルから輪廻転生をも支配していたリサイクルターミナルへ向かうと、

インタビュワーの前にはかつての少年が待っていた。


「君がこのターミナルを壊したのか! どうしてそんなことを!?」


「この町では改良を成長だと勘違いしてやがる。

 だから俺が荒療治で目を覚まさせてやるのさ」


「いくらなんでも……ここまでしなくても」


「リサイクルできなくすれば、新しいものを作らざるを得ない。

 これからこの町は革新と試行錯誤をする町へ生まれ変わる!!」


リサイクルターミナルを破壊した少年は捕まった。


すぐにまたリサイクルできるようにとターミナル修復作業が行われるが、

イチから作ったわけではなく、改良をし続けていたのでターミナル構造を理解することはできなかった。


結局、リサイクル中枢ターミナルは誰も修復することはできず町からはリサイクルが失われ町は大パニック。


「新しいデザインなんて思いつかないよ! どうすればいいんだ!」

「言われた通りにしかやってないんだからわかるわけない!!」

「誰か分かる人がなんとかしてくれーー!」


リサイクルできなくなったことで、町の人達はイチから作らねばならない。

けれどそれがわかるのは誰ひとりいなかった。


自分が生まれたときにはすでにそこに整ったものがあり、

それに水をあげるだけでよかったのだから知識はなかった。



 ・

 ・

 ・



「……さて、取材も終わったし帰るとするか」


インタビュワーは取材の記録をまとめて町を去ろうとした。

入れ違いに町に入ろうとしてくる人と鉢合わせになった。


「こんにちは、あなたはリサイクル町の人ですか?」


「いいえ、私はこの町のインタビューに来ただけです。あなたは?」


「僕は"あたらしい町"から来ました。ここに移住するつもりです」


「移住? それはまたどうして?」


「"あたらしい町"ではいつも新しいものばかり。

 いいものが出ても、もっといいものを作ろうと挑戦ばかり続けていました。

 最終的にはいいものを持続させることをしなくて滅んでしまったんです」


「そう……ですか」


「その点、このリサイクル町はすばらしい。

 過去のいいものを改良し続けている。僕の求めていた安定と安心があるんです。

 移住するならここしかないって思いました!」


目を輝かせる移民者にインタビューは教えてあげた。



「この町ですが、ちょうど滅んだところなんですよ」

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