『あっおはよう』


「おはよう?」


『そっか。そっちはおやすみか。時差すごいなあ』


「なにしてたの」


『仕事だけど』


「連絡できるなんて知らなかったんだけど」


『仕事が正念場に来ないかぎりは電話できるよ』


「さびしいんだけど」


『どんんまい』


「なんで半笑いなの?」


『彼のいない日常に耐えられなあい、みたいな?』


「そうですけど?」


『えっ』


「えっ」


『がまんしてね。仕事だから。正義の味方だから』


「べつにあなた悪人でもかまわないけど」


『そういうわけにもいかないんだなあこれが』


「わたしと仕事どっちが」


『仕事』


「は?」


『仕事しくじると世界滅ぶもん。あなた優先して世界滅んじゃったら、あなたも滅ぶんだけど。仕事優先ですよ仕事』


「しごとがんばれ」


『ありがと』


「いきてかえってきてね?」


『ん、んん。うん』


「おい」


『善処するよ』


「おいおいおい」


『正直微妙なところです。まあ仕事ですから』


「やめてそういう不安なやつ」


『嘘でも大丈夫って言ってほしかった?』


「うん」


『でも大丈夫大丈夫って言った次の日に死んでたりしたらやばくない?』


「やばい」


『まあ、こっちは生まれてこのかた延々と死線ですから。大丈夫だったことはないから。そこはまあ、安心してよ。常在戦場ってやつです』


「錠剤洗浄?」


『なんか違う気がするけど、まあいいや。また暇だったら連絡するよ』


「すき?」


『仕事よりは』


「くそが」


『はいはい。好きですよ。好き好き』


「よろしい」


『じゃね』


「うん」

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切なさの尺度 (短文詩作&α) 春嵐 @aiot3110

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