177話 リアル人形の有効活用方法
「――ぜぇ……ハァ……ど、どうでしょうか……コマさん……」
「お疲れ様です小絃さま。どれどれ……?」
キスのエキスパートであるコマさんに頼み込み、キストレーニングを開始した私。手始めにさくらんぼのへたを使い、基本的な舌使いをコマさんからご教授頂く。へたを飲み込んだり舌を噛んだり、途中で幾度となく心が折れそうになりながらも……ようやく一つまともにへたを結ぶことに成功しコマさんに判定を仰ぐ。つ、疲れた……
「……はい、良くできました。これなら合格点ですね。それにしても短時間でこれだけの舌使いをマスター出来るとは……思った通り小絃さまもキスの才能ありますよ」
「そ、そうですかね?正直さくらんぼのへた結んだだけじゃ上手くなったかどうかよくわかんないんですけど……これでキスしたら琴ちゃんも喜んでくれますかね?」
「ええ勿論。…………(ボソッ)まあ、琴さまの場合は小絃さまが何をやっても、自分のために頑張っているのであれば無条件で喜びそうではありますが」
実感なんてないしまだまだ付け焼き刃程度だろうけど。それでもコマさん曰く今朝までの自分よりも上手くなっている……らしい。これは一度琴ちゃんと試してみたいものだ。
「月並みですが、こういう練習を反復して行い。後はとにかく実践経験を積んでいけば……自然とキスは上手になりますよ」
「なるほど、習うより慣れろってやつですね」
「その通りです。私とマコ姉さまも……小学生の頃から一日最低三回はキスしていたお陰で、あらゆるキスを使いこなせるようになったわけですし」
「コマさんも師匠もどんな小学生時代を送ってたんですか……?」
さらっと過去を語るコマさんに戦慄する私。まさかナチュラルにそんな小さい頃から立花さん家の双子姉妹がキスしまくっていたなんて……そんな英才教育してたなら二人ともキスも当然上手くなるしそりゃインモラル度も天元突破するわな……
「それにしても実践経験ですか。それってつまり……琴ちゃんとキスしまくって感覚を掴んでいくしかないって事ですよね」
「あら、ご不満ですか?」
「んー……不満は、ないんですが……でも折角なら琴ちゃんにナイショでとびっきり上手になって。そんで琴ちゃんにサプライズさせてあげたいなーって」
「あー……その気持ちはちょっとわかるかもです」
私にだって野心はある。琴ちゃんの知らない間に滅茶苦茶上手になって……あわよくば『お姉ちゃん上手……♡』って琴ちゃんに尊敬されたいし、琴ちゃんをキスで年上彼女らしくリードしてあげたい。私のキステクで琴ちゃんを骨抜きにさせたげたい。
「他に手っ取り早く実戦経験を高める方法ってなにかないですかねー?」
「……ふむ」
そんなわけで冗談半分でコマさんにそう問いかける私。まあ、そもそもそんな都合の良い方法あるならとっくの昔にコマさんは試してくれているだろうし、あるわけない――
「…………あるには、ありますが」
「あ、あるんですか!?」
意外や意外。ダメ元で聞いた私にコマさんはあっさり『ある』と告げる。おぉ……!なんでも言ってみるもんだね。
「それでコマさん、それって一体どんな魔法みたいな方法です?折角なら試してみたいんですけど」
「…………」
「あ、あの……コマさん?」
と、そう問いかける私に対してコマさんは……真剣な、ちょっと怖いとも思える顔で長考し……そして私に逆に問いかけるのだった。
「その前に一つ聞きます。小絃さま……琴さまの為でしたら、どんなことでも出来ますか?」
「へ……」
「どんな恥ずかしい事でも出来ますか?琴さまに見つかれば……ショックを受けられるかもしれない事でも。それでもそれがキス上達に繋がるなら……琴さまの為になるならば……貴女は出来ますか?」
「え、えと……?ま、まあ……琴ちゃんに為になることなら……」
私の本心を打ち明けると、コマさんはスッ……と立ち上がり。ゆっくり私に近づきながら……
「……良いでしょう。実践経験は大事と言ったばかりですからね。それでは小絃さま。――キスしましょうか。この場で、今すぐに」
「…………は、い?」
そんなとんでもない事を言い出した。こ、コマ……さん……?
◇ ◇ ◇
~Side:琴~
「――遅くなっちゃった……小絃お姉ちゃん寂しがっていないかな?」
仕事を全力で終わらせて。お姉ちゃんが待つ私たちの愛の巣へと全速力で帰宅する私。最近わかったことだけど……お姉ちゃんは私が側に居ないと身体の痛みを思い出してしまうそうだ。苦肉の策としてお義母さんに頼んで特別に作って貰った私を極限まで模したリアル人形を置いていったから多少は痛みも忘れてくれるだろうけど……それでも本調子ではないお姉ちゃんの側から離れるのは心配だ。
幸い今日はコマさんが一緒にいてくれているから大丈夫だとは思うけど……不安だし、急いで帰らなくちゃ。
「着いた着いた…………って、あれ?」
「んお?……おー、コトたんじゃん。おいっすー」
「マコさんいらっしゃいです」
そうやって帰り着いた我が家の玄関の鍵を開けようとしたところで。ひょっこりと私の前に現れたのは……今日うちにお姉ちゃんの悩み相談に来てくれたコマさんの双子のお姉さんであり、小絃お姉ちゃんの料理の先生であるマコさんだった。
「もしかしてコマさんのお迎えですかマコさん?」
「当たりだよコトたん。思ったよりも早く仕事が終わっちゃってさ、折角だからコイコイの様子見ついでにコマを連れて帰ろうかなって思って来たわけさ」
「そうだったんですね。マコさんお迎えご苦労様です。どうぞ上がっていってください。……それにしても。お姉ちゃんって今日はどんな理由でコマさんを呼んだんでしょうね。マコさんご存じですか?」
「んーん、知らない。コマもコイコイから悩みがあって相談に乗って欲しいとだけしか聞いてなかったっぽいし。てか……その口ぶりだとコトたんも知らなかったんだ?」
「ええ。何せ朝にコマさんをお家にお誘いした事をお姉ちゃんに聞かされたばかりでしたので。……もう。相談事ならわざわざコマさんを呼ばなくても私が聞いてあげたのになぁ。一体コマさんに何の相談しているんだろお姉ちゃん」
マコさんを家に迎え入れながらそんな疑問を口にする。まさか私に言えない事だったりするのかな?それはちょっと複雑かも……
「……お姉ちゃんって、コマさんみたいなとっても綺麗で大人のお姉さんがタイプですし……コマさんを呼んだのは……実は浮気だったりするんじゃ……」
「ハハハ!コトたんコトたん。それさ、自分で言ってて絶対にないってわかってるでしょー?あのコイコイが浮気?コトたんという恋人がいるってのに?……ナイナイ、絶対あり得ないっての」
「あはは。バレました?勿論冗談ですよ。お姉ちゃんがそんな事するはずありませんよね。それに他でもないマコさんゾッコンLoveなコマさんが浮気相手だなんて……そんな事天地がひっくり返ってもあり得な――」
『――ん、ちゅ……は、ぁ……ンぅ』
「「…………ッ!?」」
その時だった。呑気にマコさんと二人で笑い合っていた私たちの耳に、甘く蕩けるような吐息が届いたのは。
『そう、そうです小絃さま。愛するものにキスをしたい。その唇を自分の唇と合わせたい……それは人の本能。その本能を増長させつつ……相手を想いながらキスしてください』
『は、はいコマさん……』
『初めからガツガツ舌を入れようとしてはダメ。焦る気持ちを自分の中にしまい込みながら、まずはゆっくりと唇を合わせましょう』
『チュ……ちゅぅ……こう、れすか……?』
『上出来です。そうやって少しずつ慣れさせて……慣れてきたら舌で唇を沿うように舐めてあげるんです』
『ふぁい…………れろ……ちゅく……』
「「~~~~~ッ!!?」」
この家の中にいるのは今帰ってきた私とマコさんを除けば……二人だけのハズ。リビングの奥から聞こえてくるのは、コマさんの淡々とした声と愛しのお姉ちゃんのくぐもった声。二人分の声と共に、卑しく怪しい卑猥な水音が否が応でも耳をくすぐる。
思わずマコさんと顔を見合わせてしまう私。こ、これは……まさか…………まさか……!?
『いいですよ、特訓の成果が出ています。それでは……その調子で次はいよいよ舌先を入れてください。唇が重なったらその隙間にタイミング良く忍び込ませるんですす』
『ぁ……い……』
『良い感じですね。上手ですよ小絃さま。前歯を舐めて歯茎をくすぐって……閉じられた歯をノック。やがて受け入れられたら……そのまま舌を伸ばして中へ……相手の舌に自分の舌を絡ませて、ねっとりと……味わうように――』
『ふ、ぁ……ンンっ……』
そんな……信じていたのに……貴女だけはそんな事はしないと、信じて託したというのに。どうしてですかコマさん……!?頭が真っ白になりながらも、そっと何かあった時の為にと防犯用に用意していた木刀を手にする私。(ちなみに隣では『残念だよコイコイ……私の手で自分の愛弟子を○する事になるなんて……』とどこから取りだしたのかスタンガンやら何やらで武装するマコさん)
これ以上はもう聞いていられない、耐えられない。木刀を握る手に力を込めて、私とマコさんはリビングの扉を蹴破る勢いでバンッ!と開けて。
「「そこまでだ……!そこの二人、一体何をやっている……ッ!」」
「……えっ!?あれっ!?こ、琴ちゃん……!?」
「あ、あら……?マコ姉さま……?」
そこで私たちが目にした光景は――私とマコさんが想像してしまった通り……腕組みしながら指導するコマさんの元で、必死にキスを実践するお姉ちゃんの姿だった。
「ま、待って……見ないで……みないで!?これは違う、ちがうの琴ちゃん……!?」
「あ、あはは……ええっと……なんと説明すればいいのやら……」
ただし、一つその想像と違う点があるとすれば……
「「…………ホントに、何やってるの二人とも!?」」
お姉ちゃんが熱烈にキスしていたのはコマさん――ではなく。私がお姉ちゃんが寂しくないようにと置いていった、等身大の私人形だった。お姉ちゃんは大慌てで私人形から唇を離して弁明するし、コマさんは苦笑いを浮かべながら頬を掻いているし……
なにこの状況……?
目覚めると私を慕うロリっ娘が、超絶タイプな大人の女性になっていました みょんみょん @myonmyon
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