産む罪、生まれた罰

「きっと僕たちはこれをするために生まれてきたんだよ。」


 弟のカインが、汚れのない瞳で俺の方を見てそう言った。

 街の外壁の上を覆う大きな展望台の、そのさらに上に建造された電波塔の一角から、俺と弟は足をぶらぶらと投げ出しながら、夕日に照らされる家々や人々を眺めていた。

 風はなく、足元からは時折、工事現場の金属音だけが僅かに聞こえる。

 見上げれば、静止した雲は背伸びすれば掴めるかもしれないと錯覚するほどだった。


 物心ついたときにはすでに、生きているふりをしていた。

 それを平然と受け入れている自分に気づいたのがその日だった。

 何をどれだけ気味悪く思おうとも、ガキの頃の俺には大した抵抗はできず、結果として、弟を巻き込んで行政官になるためのトレーニングコースを、珍しくサボっただけに留まった。

 断られれば、それでふっきれるような、そんな脆くて曖昧な、両親や社会へのかすかな抵抗心の表れ。それを、幸か不幸か、察しの良い弟は嫌な顔ひとつせずに「いいよ」と受け入れた。

 "行政官になってくれ"という両親からの期待を、嫌な顔一つ見せずに背負った弟は、今度はそれをサボろうと提案してくる、ろくでもない兄に対しても、相互に矛盾する家族からの提案に対しても、嫌な顔を一つ見せようとしない。


 道すがら手に入れたスマートフードを口に含む。それは路地裏で見知らぬおばあさんが細々とやっている無認可の店でしか手に入らないもので、そのときの俺らにとってはまるで危険なレアアイテムを売る禁断のブラックマーケットだった。

 それを、「うまい、美味いよ」と言いながら頬張る弟を尻目に、先程の弟の言葉を思い出して、俺はこう思った。思ってしまった。


 "こんなしょうもない事をするためにこの世に生まれてきたというのなら、この先なんのために生きていけばいいんだろう" ――。


 弟が笑顔で口に頬張っていく"それ"からは、俺は乾いた油や工業品に塗りたくるような化学薬品の味しか感じとることができなかった。

 味の話にしてもそれ以外の話にしても、このときに感じた弟との"差"は、それから数年後の現在も、どうしようもなく埋まっていかないことだけは判った。

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