フィクト・プロトコル

睦月リツ

読み切り / プロローグ

剥がれていく空

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A.P. 20131.51

帰還者AX5102_思考抽出ログ017

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 音を立てて剥がれていく空を、たった一人で見上げていた。



 その空に音を奪われてもなお降り続けていた雪が、優しく撫でるように僕の顔をかすめた。とどまった一部は溶けて形を変え、涙となって頬を伝っていった。

 くるぶしほどの高さまで積もっていた雪は、かつてなら僕から体温や感覚を奪うはずなのに、今は何も奪ってこなかった。それどころか、共に見届けてくれるような気がした。

 どこに目をやっても一面白銀だったはずの世界も、真っ白な部屋の壁紙を勢いよく剥がされたかのように、次第に無機質な漆黒があたりを包み込んでいった。



 そうしてあっけなく、この世界は終わった。

 それをこの目で見て、肌で体感する度に、虚界ここがどういう世界だったのか、僕らがどういう存在なのかを思い知らされる。



 僕らの人生には、およそ目標や信念や葛藤といえるものは一つも起きることなく、

はじまりから終わりへと、淡々と、直線的に、自動的に向かっていくだけで、

その虚しい事実から目を背けるためだけに、ありきたりな日々にそれらしい情報や属性を付与し、

いたずらに喜びや悲しみや痛みといった感情を与えられたかと思えば、今度はそれらがただの原始的事象でしかないことを叩きつけられ、

書き残しては流されて消え、語り繋げば忘れられ、手に入れれば失い、出逢えば別れ、創れば壊れ、

いくら姿かたちを変えても、考え方を改めても、時空を超えても、何もかもやり直してみても、そこからは逃れることができず、

それを悲劇と呼んでくれる者も、喜劇と呼んでくれる者もおらず、単に"理"プロトコルというもので結論付けられ、

結局のところ、産まれてきたことにも、生きることにも、存在していることにも、死ぬことにも、忘れ去られることにも、何ら意味と呼べるようなものはなく、



 それでも今なお "意識" を有していて、生命活動と呼べることをやめらないでいる。誰も彼もがそうしている。そして、そこになにか意味を見出そうとしている。だからこそ多くの人々が"理"プロトコルを否定するために、今も生きながらえている。




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虚界複数域で体感171年間の勧帰活動に従事

その後本人も"こちら"に一時帰還

最期の領域における言動に対して 財団から質疑事項が挙がっています

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