ソロ活女子と明石のタイ飯

西川笑里

おひとりさま物語

 かつては少しネガティブな響きを込めて「おひとりさま」と呼ばれていたアラサー、アラフォー独身女子たちが、最近はポジティブな意味を込めて「ソロ活女子」と呼ばれるようになったのは、うちにとっては喜ばしい限りだ。

 もちろん絶対結婚しないと決めているわけではないけれど、嫌なことを我慢してまで適当なパートナーで妥協などするぐらいなら、自分の人生をより積極的に楽しみたい。

 一人吉牛、一人焼肉や一人フレンチなどは当たり前。それを他人がどう思おうが全く気にしない生き方をうちは謳歌しているのだ。

 さあて、今日のソロ活はというと。


「ああ、いい天気!」

 ある晴れた日の朝のこと、カーテンを開けると春の長雨が終わり5月の青空は果てしなく青く広がって。

 ——よし、今日のソロ活は明石まで長距離ドライブだ。

 思いついたら即行動。メイクもほどほどに愛車の赤いパッソに乗ってうちは兵庫県の明石を目指した。

 ご存知の方もいるかもしれないが、瀬戸内海は鯛の漁場としてよく知られており、中でも明石海峡は潮流も速いこともあってよく身の締まった鯛が上がることで有名だ。(某有名グルメ漫画の究極何とかで得た知識だけどね。)


 広島から片道4時間、パッソは快調に予定通りちょうどお昼に明石着。

 ソロ活ならではの行き当たりばったりのプチ旅行のため、観光ガイドなど見てもいないけど、飛び込んじゃえばうちの勝ちと決めて海沿いを車を走らせてると目に飛び込んだのは小洒落たレストラン。うちは感を信じて黙って車を駐車場に止めた。

 ——なになに、今日の日替わり『タイ飯』1500円。

 よし、これは幸先よし。ニンマリと微笑みながら窓際のテーブルに案内されて迷わずおすすめ『日替わり』を注文よ。

 おしゃれ女子を装いながら肩肘をつき、澄み渡る青空の下、遠目にもわかる明石海峡の速い潮の流れを満喫しながら、しばし鯛飯の到着を待つ。

 そうよ、たった一杯の鯛飯を食べるための4時間のドライブこそ、ソロ活の醍醐味なのよ。この爽快感、男どもにはわかるまい。

 そうこうしているうちに、バイトだろうか東南アジア系の若いウェイトレスがにこやかに料理を持ってやってきて。

「オマタセ、トムヤンクンです」

 ——タイ飯って、おい。タイ料理……。

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