第14話(最終)

「んーコイツは、ただの日本酒じゃないね」

 カップ酒を一口飲んでコタツで温もっていたヒゲ面の男は言った。

「え? どういうことっすか?」

 同じくコタツに入っていた眼鏡男子がガブガブ飲みながら尋ねる。

「ま、要するに大した酒じゃないといっているのさ。もっといったら安酒を出すなと言っているんだろうね。嫌味なヤツだ」

 いまどき珍しいオールバックの髪型で三白眼の青年が説明した。言葉を続ける。

「大体、パチンコで勝った俺のおごり酒だ。贅沢を言うな」

 険悪な空気に耐えかねて眼鏡男子が立ち上がる。

「あ、えっと、部屋にツマミがないかさがしてきますッ」

 まぁろくなものは出てこないだろう。三人は同じ社員寮で雨風をしのぐ社蓄。給料日前の懐具合は互いに知っているというものだ。

「ありました!」

 戻ってきた眼鏡男子が嬉しそうに言う。

「玄関閉めてから言えよ。で、ポテトチップとかか?」

「タハハ……この前の飲みの帰りに買ったのを忘れていて」

「酔うと無駄遣いするクセはいずれ注意しょうと思っていたが、高菜たかなのつけ物か。悪くないな。おい、台所を借りるぞ」

 ヒゲ面が立ち上がって台所へ向かうと入れ替わって眼鏡男子がコタツに潜り込む。

「あー寒い! 何か暖かいものが出てくるといいですね」

「お前ねぇ、つけ物に何の期待してる? まぁ、刻んで炒めるのはアリだけどそりゃあビールの方が……あ、刻んでる」

 パチンコで勝った金でカップ酒はまだまだある。だけどビールはない。寒いのを承知で一杯引っ掛けたら外食に誘うつもりだったのだ。

「できたぜ。あ、蕎麦のツユ少し使った」

 鍋には薄い琥珀色のスープに刻まれた青い高菜のつけ物。

「うまそうだけど、どーすんだ?これ」

 同期の三白眼がヒゲ面に言う。ヒゲ面は、それぞれのカップ酒に高菜入りのスープを注ぐ。

「好みで一味唐子をいれてくれ」

「ドヤ顔してるが、酒飲みとしての終着駅じゃねぇか」

 ヒゲ面がにやりと笑う

「なぁに、二杯も飲んだら、メシだろ? 適当に済まそうぜ……あ!」

 ヒゲ面が眼鏡男子を指差したので三白眼もソチラをみやる

『手前ェ! 勝手に二杯目に手を付けてんじゃあネェ!』

 明日は、休み。三人は翌朝、コタツで目を覚ました。

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