第44話 今後

「ここが倉岡家の道場か……」


「……ここも大きいね?」


「本当だな……」


 創成期からダンジョン探索をおこなって得た資金をもとに、倉岡家は探索者との契約と育成の会社を経営している。

 2人が来たのは、そんな倉岡家の会社が管理している道場だ。

 倉岡家の邸もそうだが、この道場もかなり大きい。

 そんなことを思いながら、幸隆と亜美の2人はそろって道場を見上げつつ会話を交わしていた。


「いらっしゃい。では入ろうか?」


「「はい!」」


 道場の大きさに戸惑っていた2人に、倉岡家当主である与一が話しかける。

 どうやら、2人が入り辛そうにしていることに気付き、わざわざ出迎えてくれたようだ。 

 与一の出現で少し気が楽になったのか、2人は彼の後を付いて建物の中へと入って行った。






「川田幸隆です!」「大矢亜美です!」


「「よろしくお願いします!」」


 男性・女性更衣室に分かれて着替えを済ませ、幸隆と亜美は道場に入る。

 すると、与一の合図を受けて、道場内で訓練を行っていた者たちが集合する。

 その者たちが整列したのを待ち、与一は幸隆たちに挨拶を促す。

 それを受け、2人は自分の名前を言って、声を揃えた挨拶と共に頭を下げた。


「ダンジョン内での動きを見たところ、2人の魔力操作能力は高い。そのまま訓練を続けることだ」


「「はい!」」


 与一が言うように、2人の魔力操作能力は1年の学園生の中でも高い方だ。

 呪いを解くためとブランクの解消のためにゲーム内で1年使用したため、本来なら幸隆はもうすぐ3年生になる者たちと同じくらいの実力であってもおかしくはない。

 そう考えていた与一だったが、幸隆の場合、今年の卒業生の中でも上位に入れるくらいだ。

 それだけ魔力操作能力の才が高いということだろう。

 魔力操作能力が高ければ同じ威力の魔術を放っても、魔力を無駄なく、素早く発動させることが可能になるのだが、魔力操作の技術を上げるとなると、才だけではなく地道な努力を続けるしかない。

 本人の感覚によるところなので、指導で急上昇するようなことでもない。

 そのため、これ以上となると自分たちで努力をしてもらうしかない。


「それに加え、レベルの高い剣術・槍術訓練を行うべきだな」


 魔力操作能力以外で実力を上げるとなると、基本的な戦闘技術を磨くべきだと判断したため、与一は2人をこの道場に招いたのだ。


「というわけで、この子たちを君たちの訓練に参加させる」


「「「「「はい!!」」」」」


 与一の言葉に、整列した参加者たちは返事をする。

 幸隆は刀、亜美は薙刀を使用しての戦闘を基本としているため、それぞれ分かれて指導を行うのだが、学生レベルの訓練では生ぬるい。

 そのため、ここにいる倉岡家と契約をしている探索者たちの訓練に参加させることで、2人の技術は向上するはず。

 実力が上の者たちとの訓練に参加することで、自分の現在地が分かるはずだ。


「きついだろうが、2人は全力で付いて行くように」


「「はい!!」」


「魔石も用意しているし、少しの怪我くらいは気にしないように」


「「……はい!!」」


 倉岡家と契約している探索者の中には、回復魔術を得意としている者も少なくない人数存在している。

 魔術で怪我を回復させるために、魔石も充分用意している。

 そのため、怪我をしても大丈夫だと与一は伝えたかったようだが、怪我する可能性があるほど追い込む訓練なのだろうかと、2人は若干怯んだあと返事をした。


「では開始!」


 与一が言葉と共に両手を打つ。

 それを合図に訓練が開始された。






◆◆◆◆◆


[ダンジョン関連のニュースをお伝えします]


 朝、幸隆はいつもテレビをつけたまま学校へ向かう準備をおこなう。

 すると、番組恒例のニュースの時間になった。

 いつものように、頭を下げたアナウンサーが原稿を手に話し始める。


[アメリカの探索者チームが、70層の大台を超えました]


「えっ!?」


 軽めの朝食を食べて制服を着ている途中で聞こえてきたニュースに、幸隆は驚きの声を上げて思わず着替えの手を止めた。


[イタリアチームの60階層攻略からひと月も経たずの情報に、多くの国民が驚きの声を上げています]


「全くだよ……」


 アナウンサーの発言に、幸隆はテレビと分かっていても同意の言葉を呟く。

 週末に倉岡家の道場に通うようになり、幸隆は自分の剣術がまだまだだということに気付いた。

 初めて参加した時は、足腰立たなくなるまで疲弊したものだ。

 何度か参加するうちに、少しずつだが厳しい訓練にもついて行けるようになっているが、ダンジョンの攻略になんてまだ挑めない。

 それなのに、他の探索者たちはどんどん深い階層まで進んで行っている。

 これを驚くなという方がおかしいだろう。


[ダンジョンの地下への拡大により、地球の核に迫ることを危険視したことから、世界各国が本格的にダンジョン攻略に力を入れていることが窺えます]


「…………」


 与一が言っていたように、世界各国はダンジョンが地球の核に迫り、天変地異を起こす可能性を危惧した。

 そのため、ダンジョン攻略に本腰を入れる風潮に変化した。

 そうなり切れていないのは、本場の日本だけとも言える。

 そのことを、幸隆は複雑な気持ちで見ていた。


「もう数年は攻略しないでほしいけどな……」


 地球のことを考えると、世界各国同様、日本も攻略に力を入れるべきだが、長い期間ダンジョンの恩恵を受けて豊かになったこともあり、日本の探索者たちの攻略への意識は低い。

 しかし、どうせダンジョンが攻略されるのなら、やはり日本人の手によってであってほしい。 

 さらに言うのならば、自分が達成して世界に名を轟かせたいたいものだが、このままでは他の国の探索者に攻略されてしまうかもしれない。

 ダンジョンが無くなることも恐ろしいが、自分が何もできないまま攻略されてしまうことも恐ろしい。

 せめて、自分が20歳になるまでは持ってほしいものだ。


「行くか……」


 退学寸前だった自分が、もうすぐ2学年に上がる。

 世界各国の探索者たちが攻略に力を入れているなか、自分たちだけで攻略に向かうなんて危険すぎる。

 このまま新学期になったら、日本はどうなるのか。

 これからを不安に思いながらも家を出る時間だと気付いた幸隆は、テレビを消して学校へ向かうことにしたのだった。


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