第43話 見守り
「君たちの言うとおりだな……」
ダンジョンの異変調査も終わり、外国籍探索者たちがこれまでの未踏層に足を踏み入れるようになった。
そして、それまで止められていた学園生もダンジョンに入ることが許可された。
許可が出された週末、倉岡家当主の与一による幸隆と亜美の戦闘訓練が再開された。
ダンジョンを進みながら、幸隆たちは先日話し合ったことを与一にも話した。
それを受け、与一は頷きと共に合意する。
「しかし、日本はこの70年、魔石で相当潤ったからな」
幸隆たちが言うように、ダンジョンがこのままどんどん地下に伸びて行って地球の核にまで到達したら、日本のことだけでは収まらない。
そのため、今までのように魔石獲得だけで攻略を目指さないというスタンスでいるわけにはいかない。
しかし、魔石よりも攻略に意識が向かないのは、それだけ魔石という資源に頼ってきたからだ。
「この町もそうだが、西西之島なんかはいい例だな……」
「そうですね」
ダンジョンができたことで、この町は魔石マネーにより発展を遂げた。
さらに、日本は観光業界を発展させるため、1つの人口島を作り上げた。
2013年から噴火を始めた西之島は、溶岩流や火山灰などによって拡大し続けた。
海で冷え固まってできた岩石を利用して、魔法で西之島の西に魔法で人工島を造り上げ、カジノ・ショッピングモール・劇場・飲食店などが建てられ、国内外の観光地として発展を遂げた。
そんな大金を産む観光島も、魔石を使用した魔法で驚くほどの低予算で作ることができた。
その旨味を知って、長年魔石に依存してきたこの国が、いきなりそれを捨てる方向に意識を向けることなんてできないのも無理がない。
「この町だって、元々は東京から少し離れた何の特徴もない関東の一都市でしかなかったって話ですからね」
幸隆が言うように、魔石マネーで一番利益を得たのは、やはりこの町と言っていいだろう。
何の特徴もなかった都市が、ダンジョンができたことで急激に発展していき、周辺の、町と合併して大都市へと変貌したのだから。
ダンジョンを中心とした地下鉄などの交通インフラなども整備され、人口増加して政令指定都市にまでなっている今と昔では、かなりの格差が広がっている。
もしも、収入のメインとなっているダンジョンがなくなるとしたら、この町がどうなってしまうだろう。
この町の昔を知る老人たちからすると、そんなことは考えたくないだろう。
多くの議員がそんな老人たちなのだから、この市の市政もダンジョン攻略なんて、探索者に勧めることなんてしないはずだ。
「他国からすれば、日本のことなんかより地球の方が重要だから、相当な圧力をかけてくるでしょうね」
「そうだな……」
亜美の言う通り、このままダンジョンが地球の核にまで成長してしまえば、経済だのなんだの言っていられない。
日本からすると迷惑な話だろうが、他国からすると地球のためにもダンジョンの攻略を行うしかない。
攻略をしてほしくない日本にも、多くの国が団結して圧力をかけてくることが予想できる。
「むしろ、いい理由ができたかもしれないな……」
「どこの国もあまりいい顔していませんでしたからね」
魔石をほぼ独占して、経済的に潤い続けている日本。
これまで地球経済の中心である日本に文句を言うことは憚られてきたが、良く思っていなかった他国からすると、地球のためという大義名分ができたというもの。
日本がダンジョン攻略に二の足を踏めば、確実に世界に向けて非難する声明を上げることだろう。
「まぁ、私のような老人からすると、攻略を目指すためには今の若者に期待するしかないのだがな」
「……そうっすね」
「……頑張ります」
有名な倉岡家の当主とはいっても、ダンジョン深くまで潜るようなことはなくなった。
ダンジョンで魔物を倒せば、少しずつとはいえ身体能力が向上する。
向上した身体能力は、ダンジョンから出ても変わらない。
その身体能力の向上は、ダンジョン内に入ることができる限られた人間だけのもの。
そのため、創成期には上昇した身体能力を利用した犯罪者も出現したものだ。
100mを世界記録で走り抜ける者が多数現れれば、当然不公平感が生まれる。
世界からの抗議もあり、ダンジョン内に入れる人間は、内部に入ったことがないことを証明できない限りオリンピックに参加する権利がなくなってしまった。
身体能力が向上するといっても、いまさら攻略を目指して訓練をするには、自分は年齢的に難しい。
そのため、攻略は自分の孫に近い世代となる幸隆たちに任せるしかない。
この訓練の目的もその一端を担っている。
与一から期待の言葉をかけられ、若干気が引き締まる思いがした幸隆と亜美は、少し表情を強ばらせて返答した。
「さて、ここからは前回の続きだ。気を引き締めて先を進もう」
「「はい!」」
幸隆たちが今いるところは12層。
出現した魔物を倒し、会話をしながらも、ここまでは問題なく進めた。
しかし、前回志摩たちを救出した場所までたどり着くと、与一はいったん足を止めて2人に注意を促す。
幸隆は自衛隊と共に異変調査に入ったときに通ったが、ほとんど戦闘は自衛隊員任せだったため、特に苦労した覚えはない。
今回の場合、その戦闘を自分で行わなければならない。
与一の言葉を受け、幸隆と亜美は素直に返事をした。
『気を引き締めろとか言ったが、どうやら問題ないようだな……』
基本的に出てくる魔物は幸隆と亜美に任せ、与一は後方から見守る形をとっている。
その状態で前回よりも先に進んでいるというのに、2人は苦戦する様子がない。
そのため、与一は心の中で安心していた。
『とはいっても、2人ともまだまだ成長の余地はあるみたいだな』
幸隆も亜美も、学園生としてはかなりのレベルにまで到達している。
しかし、更なる高みに到達するためには、気を付けるべき点が見えてくる。
『若者の成長を見れるのはなかなか楽しいな……』
若い頃はダンジョン下層を目指していたが、もうそういった意識もなくなっていた。
それもあって、現役はほぼ引退していたが、幸隆たちの指導役を受けてからは昔のようにダンジョンに入ることが楽しく思えていた。
その理由が、幸隆たちの成長を見られるからだと分かっている。
『……それも年のせいか?』
若者の成長を見て楽しむなんて、若い頃には全く思っていなかったが、今になってどうしてそんなことを思うようになったのか。
それを考えたとき、与一はそれは自分が年を取ったからによるものだと気付き、心の中で何故か感慨深い気持ちになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます