第3話 引き金

 7月下旬。

 本来なら夏休みに入る時期だが、今年は授業数が足りないため、8月上旬まで午前中授業がある。


「部活1時からだってー」


「おっけー」


 先輩よりも早くコートに入らないといけないため、急いでお昼を食べないと間に合わない。

 でも、駐輪場に弁当を持っていくともうすでに先輩がお昼を食べていた。

 SHRが終わるのが早い先輩よりも早く入るのは不可能に近かった。


 案の定、先輩に先に入られてしまい、急いで食べてコート入りする。


 そして最後の集合の時、


「1年生全体的に食べるの遅い。SHR終わるのが遅いのはわかるけど、私たちの時はできてたから」


 確かに、先輩たちの時はできていたかもしれない。でも、今年はイレギュラーで部活が開始した時期も遅いため、先輩たちの時よりもできないのは当然である。


「まあ、部活始まるのが遅かったからまだ慣れないのはわかるけど、始まるのが遅かった分、追いつくように努力してね」


 先輩の中でも比較的優しい増田先輩がフォローしてくれる。


 こんな感じで毎日が過ぎていった。


 夏休みが終わり、2学期がスタートした直後、部内で一回目の変化があった。


 男テニで一緒に練習していたある男子が退部したのだ。


 その子の部活最終日、1年生だけの男女集合をして話を聞いた。


「俺は、今日をもって部活をやめることにしました。理由としては、学業との両立ができず、成績が落ちているからです」


 退部する彼はそう言った。


 でも、その話を聞いていた誰もがそれが本当の理由ではないことを知っていた。


 夏休みの練習は、自粛期間の遅れを取り戻すために、夜暗くなるまでやることも少なくなかった。その中で彼はレベル的にもほかの子と比べやや劣り、迷惑をかけていることが多かった。


「多分、練習がきつくて、嫌になっちゃったんだと思う」


 部室に戻って、白城が言った。



 この最初の変化がこの部活を崩壊させていく引き金になってしまった。


 

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コートの外の話 season2 kamra @kamra

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