五月雨降りやまぬ五月上旬、深夜。主人公の中年男性は駅前の駐輪場で、あどけない少女を拾った。濡れたシャツに浮き出た下着。主人公はその未熟な魔性に魅入られるよう、少女と禁断の契約を交わしてしまう。甘く甜く、蕩けそうな生活。いつしかお互いのいない生活など考えられなくなっていた。しかし少女の告白がふたりの絆を切り裂いていく。「実は私、幽霊なの」
――――という話ではなく、どこか眠りの小五郎にも似た関係性の探偵コンビが活躍する物語です。特筆すべき箇所は多々ありますが、最も好感を持った点は推理小説にありがちな『主人公にしか分からない解決の糸口』がなかったこと。よくよく観察すればヒントがいくらでも散りばめられていて、誰にでも犯人の目星はつくでしょう。ただ、『それが分かったからってどうなんだ?』と、言わんばかりの興味深い人間ドラマがバックに流れているので、事件の謎解きよりも思わずそちらの謎を追ってしまいます。
とても面白い作品なので、ぜひ皆さんも表紙をめくってみて下さい。