Case25 お金持ちを夢見る男子中学生の話25

「トオルさん、是非僕と一緒にカイトのところに行こうよ!お金があれば幸せになれるんだから!」


僕は目の前のトオルという男に向かって言った。トオルというのは元々仲の良かった同級生、ヨシアキの兄だ。ロン毛の茶髪、緑縁の眼鏡に大きいガタイとかなり厳つい見た目をしているにも関わらず、性格はかなり気弱で、彼女もおらず、職場では上司にもこき使われているらしい。金がねぇ、それがトオルの口癖で、ヨシアキの家に遊びにいき、兄のトオルに会うたびにぼやいていた。


僕達が話していたのは昼間のショッピングモールのフードコートだった。


「金があれば、幸せになれる。」


トオルはそう繰り返した。


「ほ、ほんとに儲かるの?」


トオルは尋ねる。


「ああ、カイトさんに付いてけば間違いないんだ!もう何人も稼ぎが3倍、4倍になった人達を見てきたんだ!」


僕は自分にさえ言い聞かせるように言った。そうだ、カイトに付いていけば鯉島に一矢報いる事ができる。お母さんに会えるんだ。


「じゃあ、ちょっと、会ってみたいな。その、カイトって人。」


「うん。すぐ連絡とってみる!」


僕はカイトとの連絡用のスマホを取り出して電話をする。カイトはすぐに応じた。


「いいよ。ちょうど他にも話を聞きたいって人が何人か僕のところに来るみたいなんだ。その人達と一緒にセミナーを聞いてもらおう。そうだな。15時ごろに連れてくるといいよ。」


僕はカイトが指定したマンションにトオルを連れて行った。45階建てのマンションの最上階だった。そこにはカイト以外にも男女揃って10数人の大人がいた。中学生の僕はかなり物珍しい目で見られたが、カイトが僕に親しげに話しかけるので、周りの大人は僕の事を特別な子供だと思ったようだった。


 やがてカイトのセミナーが始まった。トオルを含め何人かの男女数人が真剣にその話を聞いていた。中にはノートを取りながら真剣に聞いている人もいた。残りの人達はベランダでタバコを吹かしながら、この銘柄の上がり幅がどうのと話し込んでいた。カイトが前に立ち、いつものようにホワイトボードで説明を始める。


「仮想通貨というのはインターネット上でやり取りされる通貨で、通常その価値の変動は分かりづらい。だけど大丈夫。今はAIによってどの銘柄を買えばいいのか判断できる時代だ。」


その後もカイトのセミナーは続いた。セミナーに参加した者達は徐々にカイトの虜になっていった。


「なぁ、純太ぁ?お前今まで学校サボって何やってたんだよ?」


 ある日僕は河川敷で同じクラスの同級生に絡まれた。学年でも名の知れた不良3人組だったが、僕は相手にしなかった。こんな奴らヤクザに比べたら少しも怖くはない。だが、その仲の一人の発した言葉で状況は変わった。


「おい純太。お前の母ちゃんやばい仕事してんだろ?この前昼間っからおっさんとホテル入ってくとこ見たぜ!」


「うえぇ、まじかよ。キンモ!」


安い挑発だった。しかし気付いた時には僕は奴らに殴りかかり、それで返り討ちにあっていた。ヤクザの前に立ったからといって僕の腕っ節が強くなったわけではないのだとその時になって気付いた。


その時だった。


「君達、やめなさい!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

警察庁幸福追及課2 上海公司 @kosi-syanghai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る