第4話 散策


 車内でうたた寝していると、ハッチをノックする音が聞こえてくる。

 ハッチを開けると、何かを抱えたカヤが入ってくる。


「お待たせー。ちょっとは、金になりそうな物があったから、街に行ったら美味いもん食わせたげるよ」

「ありがとうございます!その手に持ってる物は?」


 カヤはこちらにその物体を見せつけてくる。どうやら、紙幣らしき紙と、四角く切り出された鉱石の様な物だ。


「これが王国の紙幣で、こっちが、王国戦車のエンジンのアクセラレーター用の魔術鉱石。馬鹿でかいけど、性能はいまいちなんだよね」


 カヤはそれらを置いて、操縦手に戻る。仕組みは分からないが、動力源として魔術が使われているらしい。

 ならば、魔術を勉強すれば、戦車を作り出せるのだろうか。ちょっと、ワクワクしてきた。


「マヤ、街までそんなにかからないし、この世界の常識とか、教えとこうかな。…でも、マヤは結構普通だからなー、身なりくらいか」


 自分はカヤの服と自分の服を比べる。今自分はTシャツとジーパンを着ている。柄も何も無い地味な奴。

 それに対して、カヤは派手ではないが、中世ヨーロッパの様な服装に、マントを羽織っている。まさに冒険者と言った風貌だ。

 まあ、アニメの様な布面積の小ささでは無いが。


「あたしも王国の服だから、そろそろ買い換えないとねー。マヤもその魔族領の私服のようなのじゃ寒いだろうし、コート買ってやるよ」

「コートですか…似合いますかね?」

「ああ、似合うさ!大体、マヤは冒険者の服の方が似合わない」


 確かに、ファンタジー風の服装で、砲弾を装填しているのもおかしい。

 いや、紳士風のコートでもおかしいか。

 しかし、ヨーロッパ風のコートをクールに着こなす、その方が憧れる。


「そういえば、冒険者っているんですか?職業として?」

「職業としてだね。昔は未踏破の地を探索する奴らを言っていたけど、最近は魔王に喧嘩売りに行く奴とか、自立して定職に就きたくないから、名乗ってるだけの奴しかいないね。もう魔獣も殆ど絶滅しちまったし」


 カヤはため息をつく。もしかしたら、ドラゴンとかも以前はいたのかもしれないが、転生者や冒険者に狩り尽くされたのだろう。世知辛いな。


 戦車のハッチから周りの風景を眺める。どうやら、ぽつりぽつりと、家が増えてきた様だ。

 日本では家を詰め込みまくっているせいで、街の間隔が大きく空いていることに、違和感を感じている。


「とりあえず、宿を探そうか。街の外れには大型の車両でも停められる宿があるんだよね」

「了解です」


 暫く走っていると、それらしき建物が見えてきた。すると、カヤは戦車を停めて、自分に赤いコートを渡してきた。


「これ、あたしのだけど、男でも着れるだろ?ほら、お金渡しとくから、自分で買ってきな。ほら、5000ゾロト。ここら辺ならこれで足りる。無駄使いすんなよ?」

「分かりました。行ってきます!」


 自分はコートを羽織って、戦車から飛び出る。直ぐそこに街が見えている。異世界の街、とても楽しみだ。

 自分は逸る気持ちを抑えながら、街を歩く。キョロキョロと店や民家を眺めていると、何故か思ってたのと違う感が凄い。

 ザ・ヨーロッパ的な建物ではある。日本には無かった建物ではある。しかし、全くファンタジー感がない。

 足元の石畳も綺麗に敷き詰められて、建物も基礎を見るとコンクリートらしき素材である。


「よく考えたら戦車走ってる時点で、工業力があるから、中世ヨーロッパみたいな家では無いのか…まあ、オシャレではあるけど」


 それに対して、街を歩く人達は腰に剣を帯びたり、背中に魔法の杖らしき物を背負っている。

 それなのに、コートやスーツを着ている人も見かけられる。

 自分の感覚からすると、服装に合っていない。

 例えるなら、古風な銀食器に豚のしょうが焼きが置かれている様なミスマッチ感。別にどちらかが悪いという訳じゃないが、合わせると珍妙。


「お、服屋だ。予算が足りるか分からないけど、とりあえず入ってみるかな」


 自分はドキドキしながら、店内に入っていった。



「中々、様になったんじゃないかな?」


 30分経った後、その店で服を買い終わって、外に出てきていた。普段着る事の無い様な、コートを着て、少し浮かれている。

 記憶が無くなっているので、絶対着ていなかったと言う証拠は無いが、このワクワク感は本物だ。


「よし!1000ゾロ…ト?くらい残ってるし、物価調べる為にも散策するかなー」


 服を揃えるのに、4000位使ったが、相場が分からないので、日本円換算だとどれくらいの値段なのか分からない。

 日用品ならば、1ゾロト当たりの値段が大体分かるだろう。少し調べておきたい。

 ならば、目指すは商店街。


 また歩き出す。そこまで遠くまでは行けないが、多少は散策しても怒られはしないだろう。

 10分ほど歩くと、いい匂いがしてきた。

 この辺りは比較的、庶民的な店が多いので、道を歩く人も色々な格好をしている。

 よく見ると、帽子の端から獣の耳の様な物が見えている人もいる。

 ファンタジー世界らしく、エルフや獣人などがいるようだ。もふもふの尻尾を生やしていたり、長い耳で綺麗な金髪を持つ女性もいるといるのだろう。

 獣耳か…1度じっくりと観察してみたいな。

 そんな事を考えていると、近くで悲鳴が聞こえる。


「誰か!助けて!」

「大人しくしろ、この野郎!」


 おっと、この展開は色々な所で見た事があるぞ。

 声のする方を見ると、巨乳な美少女が胸を揺らしながら、見るからに悪そうな人達に囲まれて助けを求めている。

 あまりに、異世界ではありきたりなシーン過ぎて、少し笑ってしまう。


「まあ、ここは助けるべきか」


 自分は銃を肩から、下ろそうと、紐に手をかけるが、急に若い男の声が聞こえる。


「待て!その子を離せ!」


 どうやら、先を越されてしまった様だ。とても平凡な顔付きの、自信に満ち溢れた高校生くらいの男が、男達の前に飛び出していた。

 紐から手を離して、別の方向に歩き出す。この先の展開は読めている。

 あの少年が圧倒的な能力で男達をなぎ倒して、女の子がキャー、ステキー、ダイスキー。

 はい、ハーレム要員いっちょあがり!


 現実で見ると、笑ってしまう程、都合のいい展開だ。

 これ以上見ていると、なんの能力も貰えていない自分の事が悲しくなってしまう。

 強いていえば、この魔法のライフルだけだ。


「まあ、別にハーレムが欲しい訳じゃないし、普通に暮らせりゃいっかー」


 少し笑ってから、また歩き出した。

 数秒後に、襲っていた男達の悲鳴と、爆発音が聞こえてきた。

 大体予想は当たってたようだ。

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履帯の跡を異世界の地に 異世界の空に魔術の光を @unyuclear

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