孤煩い 三十と一夜の短篇第61回

白川津 中々

 謝罪するにしたって今更なんと言えばいいのか。


 近頃頭に浮かぶのは絶縁した友人の事である。何かきっかけがあったわけでもないが、ふいに思い出され、私の胸を突き刺す。


 私は一言、「つんまんないね」と残し彼のもとを去った。今思えばどうしてあんな事を言ったのか分からないし、当時、本当につまらないと思っていたのかどうかも定かではない。それ程、時は過ぎてしまった。できるのであれば彼自身に心の内を述べ、あわよくばかつての友情の復元を懇願したいが、今更、どの面下げて「すまなかった」と頭を垂れればいいのか。言われた方とて困惑するか、或いは怒り出すだろう。「なんだ今更」。


 日に日に強くなる悔恨をどこに吐き出せばいいのか分からない。良き知人も良き妻も私にはいないのだ。それ故、過去の友情を思い懐かしんでいるのだろうか。だとしたら随分哀れなものだが、これが老いというのであれば受け入れる他ない。


 思うに私は自己に酔っていた。孤独を崇拝している風を装っていた。他人と交わる事への恐れを隠そうとしていた。惰弱な精神性は今と変わらないが、今と違って若さがあった。若さ故に、人の心も自分の心も分からなかった。あの時あんな真似をしなければ、今でも共に酒を酌むくらいはしていただろうに。

 いや、恐らく、結局同じだ。こうして過去についてうじうじと悩み後悔ばかりをしているような人間は、どうあってもどこかでボロを出すのだ。どの道を選んでも意思薄弱な私は必ず彼を裏切る。そして私は一人となり今のように悩むに違いない。自分に酔っ払って、心地よい自己嫌悪に沈むばかりで、益体もない人生を歩むのである。こうして綴っている文章も酔っ払っていなくちゃ書けない、無益な内容だ。


 けれど、会って、謝りたい。それが自己満足でも。自己陶酔でも、彼に会って、謝罪をして、そしたら、あぁ、駄目だ。また同じ事をする未来しか見えてこない。私はどうあっても、駄目なようだ。そうだ。私は一人でいるしかないのだ。一人で……一人で……

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