第3話 城郭都市ガストラ

 ーー城郭都市『ガストラ』は、国を囲う森に住まう魔獣たちの脅威に対して防御するため、10メートルを超える幾つもの巨大な城壁に囲まれた国である。

 唯一、一つだけある大きな門では、24時間いつでも代わる代わる10人以上の兵士が森の監視をしており、魔獣は勿論、他国の人間も簡単には入れない。正に、侵入不可能の要塞である。それこそ、今日の様な緊急事態の時でもなければ。

 事の始まりは、世界有数の魔獣の生息地である『フェンリルの森』が突然爆発し、森に住んでいた魔獣たちが燃え広がる炎から逃げ、ガストラに向かってきたことだ。

 フェンリルの森の爆発という、あまりに予想外の事態に脳が状況の整理に追い付かずパニックになっていた兵士たちにとって、突然の魔獣たちの大群という更なる予想外の危機はあまりにも痛手過ぎた。長年の平和のせいで少し警戒が緩くなっていた兵士たちは突然襲来した魔獣の群れに為す統べもなく蹂躙されていき、ものの2分ほどで門の防備が突破された。

刹那、兵士たちの死体を踏みつけて魔獣たちが瞬く間に王国に流れ込んでいく。そんな理解不能の事態に、王国中の人間たちはパニックになり、大きな悲鳴を上げながら国を必死に走りだした。中には、迫り来る魔獣の群れから逃げながらも、神の加護の力を信じて天に必死に祈りを捧げている人間も何人かいたが、数秒後に魔獣たちによる虐殺が始まると、神への祈りがこの場に於いて意味を為さないことを悟り、祈りを止めて全力で逃げ出した。

 だが、常に獲物に餓えた魔獣たちが、目の前にいる食糧をみすみす逃す訳がない。魔獣たちはただただ肉を欲する怪物と化しその場にいる肉達を全て喰いつくさんと、王国中を駆け回る。そんな凶暴な魔獣たちから人々は、喰われてなるものかと死に物狂いで懸命に逃げるが、その努力も虚しく、腹ペコの魔獣たちによって次々と補食されていき、王国は魔獣たちに噛み殺された人間たちの血潮と脳漿で染まる。それに伴って、残った人間の数も徐々に減っていき、先程まで絶えず王国中に響き渡っていた悲鳴も少しずつ静かになっていった。

 

 ーー逃げ惑う人々の多くが、自分たちの作った堅牢な壁によって逃げ道を塞がれ死んでゆく。自分たちを守ってくれる筈の壁が、逆に自分たちを死へと追い込むという悲惨な光景が、そこにあった。

 これが、世界最高にして最大の城郭都市ガストラの最期とはなんとも皮肉なものか。

 上空100メートルより、王国に住む10万もの市民の最後の1人が死ぬのを見届けてから、ガトレスは空を飛んで王城へ向かった。

王城の門の前では、王国が誇る防御魔法の使い手の魔導士たちが、王城へと迫る魔獣の群れを必死で阻止しようとしているのが見える。だが、その防壁が突破されるのも時間の問題だろう。何しろ、魔導士の数に比べて魔獣の数が多すぎる。このままでは、魔導士たちが魔獣の群れに全滅させられるのは火を見るより明らかだ。

 だがガトレスにとって、魔導士の命の存亡など、どうだっていい。今はこの国に来た目的を果たす事が最優先だ。ガトレスがこの国に来た目的。それは……、


***************

「バン!!」といきなり勢いよく扉が開かれ、驚いて顔を上げると、そこには深い赤色の短髪の若い青年が立っていた。思わず見とれてしまいそうなほど綺麗な赤い瞳がこちらを捉えて離さない。突然現れたその男に、少しの間、呆気に取られてしまった。そんな中、男はこちらに向かって、確かなしっかりとした足取りでこちらに近づいてくると、「俺と契約を結ばないか?」

と、話を持ち掛けてきたのだった。

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魔王さまは二周目です ~史上最強魔王の復讐劇~ パインアメ🍍 @escargotz

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