第32話 路上演奏(伝説となる?)

 蒼が演奏を始めると、1人また1人と立ち止まる人が出てきた。


 蒼の右手が軽快にリズムを刻み、自由自在にストロークを変化させる。


 その度に辺りからは歓声や感嘆の声が上がる。


 左手もコード押さえるだけでなく、合間に単音も挟み、音に幅を持たせていく。


 (あー、この感じがたまんない!)


 ギターを始めて気づいたが、ピアノでは基本的に半音の和音は綺麗ではなく、どちらかと言うと不協和音だがギターでやると綺麗に聴こえるのだ。


 そんなギターの特権を惜しみなく使いながら、両手は忙しなく動いていく。


 自分の気持ちの全てをギターにぶつけ、頭に浮かぶ音を好きなように拾いながら、段々と曲を加速させ、ラストスパートへ向かって全力疾走していく。


 8ビートで始まったストロークは次第に速まり、終盤は36ビートの超高速弾きとなった。


 弦を抑える左手はまるでピアノの鍵盤の上を転がすように滑らかにそして高速で動いでいく。


 常人には理解できない両手の動きに観客は唖然とするしかなく、それでいて全く精細さを欠かない演奏は見るもの全てを釘付けさせる凄まじい吸引力があった。


 

 最後の力を振り絞って弦を弾き、曲を締める。


 両手は自然と力を失い、汗が頬を伝い地面に落ちた。


 それを合図としたのか、偶然か、周りからの溢れんばかりの拍手と歓声、叫び声が一斉に上がった。


 蒼はその声と熱気に驚き、帽子のつばを後ろにして、辺りを見ると、およそ50人もの人々が集まっていた。


(こんなに居たんだ!演奏に夢中で気が付かなかった)


 集まってくれた人たちは皆一様にさっきの演奏について興奮気味に話し合っていた。


 まるでサッカーのW杯をストリートビューで観戦している時のような一体感と盛り上がりだ。


 演奏した当の本人は蚊帳かやの外であった。


 (この状況どうしようかな)


 蒼は元々の予定はギターのテクニックで少しずつ注目を集めてから、集まってくれた人にリクエストを聞きながらそれを演奏するという大まかな予定を立てていた。


 

 しかし、思いのほか緊張してしまったせいで、ギターを全力で弾いてしまい、今はろくに体力が残っていない状態なのである。


 そんな時、一番前で見ていた大学生ぐらいの女の子が蒼の顔をまじまじと見つめてから、ハッとした顔になった。


 蒼は何だろと不思議に思っていると女の子はぽつりと一言漏らした。


「佐藤蒼くんだ…」


 その呟きはほんの小さな声であったが、瞬く間に周囲に伝播していき、集まっていた人たちは佐藤蒼をひと目見ようと後ろからどんどん押し寄せてきた。


「これはヤバい!」


 蒼は慌ててギターを担ぎその場を逃げるように後にした。


 


 この日を境に蒼は路上や駅前が中心ではあったが、色々な場所で演奏を行った。


 綺麗に咲き誇るコスモス畑や山の山頂、海岸や湖などの絶景の中での演奏は最高のひと時であった。



 休日は電車で1日かけて演奏をしに行った事もあった。


 また大型連休や長期休みは父の運送の仕事について行き、訪れたパーキングエリアやコンビニでも演奏をした。

 

 父とはこの機会に沢山話すことができ、お互いに心の距離が縮まった。


 親子とはいえ全然会えないと知らず知らずのうちに壁ができてしまい、他人行儀なってしまう。


 そう言った意味でこの旅行は蒼たち家族にとって良いものとなった。


 演奏の方は言うまでもなく、大盛況でどこでどんな人たちが聴きに来ても皆一様に満足し、蒼のとりこになっていくのであった。


 蒼はテレビなどのメディアにちょくちょく出演しているため、自分の知名度は認識していた。


 だから、毎回帽子やフードを被り変装と言うかバレないよう気をつけていた。


 しかし、いつも気を抜いた時や、めざとい人に見つかっりして、慌てて逃げるというパターンを繰り返した。


 また蒼の神がった演奏の集客力はものすごく、あまりの人の多さに警察が注意に来る事もしばしば……


 (まあ、少し楽しんでいたのは認めるめが。)


 そんな楽しい3年間を過ごし、学校生活以外では十分充実した日々を過ごした。


 言い加えると蒼は初恋の女の子である佐々木紬とは良好な関係を築いていた。

 

 クラスではあまり話さないが音楽室など二人の時は互いに楽しく会話したり、ピアノを弾いたりあと勉強もした。

 

 勉強は彼女からピアノを教えてもらっているお礼にと教えて貰えることになった。

 

 最初は授業や宿題が主な内容だが、二人ともそこら辺は完璧であるため、彼女は段々と蒼のレベルに合わせて内容を難化させていった。

 

 彼女のすごいところは既に数学は高校の範囲をマスターしており、それを蒼に理解できるように説明できるレベルであることだ。

 

 これには流石の蒼も開いた口が塞がらなかった。

 

 蒼は彼女から教えてもらったお陰で数学の学力はグングン伸び、前世でつまずいた高校範囲もできるようになった。

 

 この蒼の爆発的成長には天才美少女こと、佐々木紬も小首を傾げて考えたが、自分も同じことをやっていたことに気づきすぐにその疑問は頭から散布し、同じレベルで数学の話ができる友達ができたことに歓喜した。

 

 それからはお互いに数学の問題を出し合うようになった。

 

 「じゃあ、問題出すよ。これは結構難問だから、紬ちゃんでも難しいと思うよ。」

 

 「ほんとー!じゃあ頑張らないと!」

 

 そう言って彼女は腕まくりをし、チョークを右手に黒板に解答を書く準備をした。

 

 ちなみに今は放課後でクラスには誰もいないので黒板は使いたい放題である。



 先生がいると黒板を勝ってに使ったと怒られてしまうがやっぱり黒板に書くのは楽しいので蒼たちは誰もいない時は積極的に使っている。


 あと、めちゃくちゃかわいい。

 名前は不要だろう。


 蒼は問題を書いた紙を紬に手渡した。


******


 (問題)

 半径1の円に内接し,A=π/3である。△ABCについて,3辺の長さの和の最大値を求めよ。

 

******

 

 これは大学入試でも出されるレベルの難しいものである。

 

 しかし、紬は1分にも満たない時間で方針を決定し、黒板に解説しながら解答を書いていく。

 

 「確かに少し難しいね。でも三角形の3辺の長さの和の最大になるのは、正三角形の時だしね。

 しっかりと解いてくと、条件は問題文からA=π/3と、あと三角形だからA+B+C=πの2つがあるよね。

 ここが一つ目のポイント。  

 あとは角に関する条件だから、辺を角で表して角に関する最大値の問題と考えるんだよ。

 ここで、外接円が半径1だから正弦定理が使えるから、それで解けるね!」

 

 そう笑顔で解説をするとすらすらと流れる手付きで解答を黒板に書き上げた。

 

 「答えは√3+2√3・1=3√3になるね」


 「正解だよ!すごいね!俺が言をうと思ってた正三角形のことも言われちゃったし、文句のつけようがないよ!」

 

 蒼がそう褒めると、少し照れたように言った。


 「そんなことないよ。蒼くんだってすぐ解けるよ。」

 

 そんなことを言い合いながら、この後も問題を出して解きあった。

 

 蒼は一応答えまで辿り着くものの、条件の範囲設定や書き忘れなどで完璧に正解することは出来なかったが、紬は全問正解であった。

 

 しかし、蒼の急成長は紬も目を見張るものがあり、着実に前進をしていた。

 

 

 また、この様子を通りかかった先生が目撃し、二人のレベルの高さに驚愕し、改めて二人の天才ぶりを思い知ると同時にもう一度学び直そうと決意させた。

 

 その意識は他の職員にも影響を与え、公立小学校ではありえない程、教育の質が向上し全国学力テストでは学校別の成績で上位に食い込むまでとなった。

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現実世界でスキルが使えるようになった!〜人生2回目悔いが無いよう全力で挑む〜 麒麟 @bisumaruku

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