第3話 道とは
道には果てがある。世界にも果てがある。人間関係にも果てがあるし、人生にも果てがある。
果てというのは、身近なところで言えば、「終わり」を意味している。
結局、全ては「おわる」のだ。
人間が永遠ではないように、形があるものは全て消失する。なくなる。跡形もなく。
無形の存在は、そんなもの存在しない。概念も存在しない。だって、それは目に見えないのだから。目に見えないものは存在するとは言えない。
その理論でいけば、幽霊なんて存在しないし、魔力なんて存在しないのだ。
日本ではその理論は有効だったのかもしれない。けれど、それが異世界で通用しないとは思わなかった。
するとどうだろう。
世界の常識は、異世界の非常識であるのだ。
魔力もある。幽霊もいる。形のないものが存在できると証明されてしまったのだったら。
人間や、形のあるもの全てに、「終わり」なんてなのではないのか。
つまり、仙人や神にでもなれる。すると寿命という縛りから解放されて世界を気にする必要なんてなくなるのではなかろうか。
なんて、脱線してしまったね。
結局、今回何を言いたいのかと言えば。
集落を発見した。
全裸集落だった。
「ちょっと待ってよぉ。こんなところがあるなら、ちゃんとしたビデオカメラ持ってきたよぉ!!」
吉沢教授はいや。もう教授というのはやめておこう。そんな尊厳を持った生物に見えないから。
そして、吉沢は地団駄を踏みながら、持ってきたスマホで全裸集落に入る要するを実況していた。
俺は知っている。実況しながら動画を撮れば、それを見た時に後悔するんだ。どうして黙って撮影しなかったんだろうってね。結局、自分の声が不快に思てくるんだ。
「バッテリー持つんですか? なんか結構使ってますよね。それ」
オグリの心配もさることながら、吉沢は軽くいうのだ。
「充電の魔法が使えるからね。
どちらかと言えば、メモリーの方が心配だよ。
先週買い換えたばかりのリンゴ電話14なんだけどね。容量はなんとびっくり3T」
「いや。多すぎますって」
と、突っ込みながら
「えっ!? 魔法が使えるんですか!?!?!?!?」
「うん。みんな使えるって思ってたけどね。
こういう話では魔法を試してみるのは、そりゃあ常識でしょう」
「あ、俺も使えるよ」
「ゴメンナサイワタシモイケマス」
下川とトリスタンが吉沢に続いた。
なんだ、このゼミは馬鹿しかいないのか
「ちょっと。待ってくださいね」
オグリが頭を抱えながら吉沢たちを見た。
そうして数秒経ったのちに、俺たちの方を見て
「君たちは、魔法が使えるのかい?」
と聞いてきた。
結局、文系のゼミは研究なんてしないから、仲が良い人はそのグループだけで固まり、そうでない人たちは、もっと孤立していくのだ。
俺と先輩がそのいい例で、このゼミに結局友達なんて、はたまた「喋る」人間は存在していなかった。
今回、俺は先輩としかかいわをしていなかった。
その先輩すらも、俺がノックアウトしてしまい、今は戦闘不能であった。
病みの先輩と、キタミレナを介抱しながら歩く、ほのか先輩がかなりかわいそうに見えてきた。
片方は、俺のせいではあるが。
こんなにコミュニケーションが取れていない俺でも、言っていいことと悪いことくらい判別がついた。
というか、わかってしまった。
4年間かなりの頻度で一緒にいた人間の名前を知らないなんて、ダメだろう。
というか、先輩こそ俺の名前を知っているのだろうか。
結局、先輩から俺の名前を呼んでいるところを思い出そうとして、ダメだった。
多分、一度も呼ばれたことがない気がする。
知らないのではなかろうか?
まぁ、そんなことはどうでも良くて。
「いえ、俺も使えないですよ?」
「自分もです」
「私というか、この3人は使えてても戦闘不能なんで」
ほのか先輩は、喋らなくなったはだかんぼ少女と名無し少女の代わりに返事をした。
それはともかく。
あの全裸集落に見覚えのある裸を見つけたのだ。
「あれは、キャンベルくんでは?」
最初に言ったのは吉沢で、次に目を凝らしてオグリや下川が「あ、そうかもしれません」と同意をした。
「イエアレチガウヨ」
トリスタンだけが、全裸集落の村の真ん中でキャンプファイアーを囲んでダンスしている女性たちを見ていた。
かなりの胸の脂肪があるようで、ブルンブルン揺れていて、それをまじまじを見ながら股間をいじっているのがトリスタン。
ミヤザワは、混じりたいようだがキタミレナをチラチラと見ながら遠慮しているのだろうか?
「よし、みんなで混ざろう! キャンベルに混じれば私たちも大丈夫でしょう!」
なんて楽観的な吉沢に、乗る気の下川、トリスタン。それに、ミヤザワもついていくことになった。
なんだ、さっきの気にしていますよアピールは。
結局ワンナイト目的だったことが判明してしまった。
それを察してしまったキタミレナは、もっと落ち込んでしまった。
こんな時に、吉沢がよく見ているライトノベルではどんな声をかければモテるのだろうか。傷心少女の救方!なんて。
そんなのはあるはずがないのに。
結局、自分の顔を晒しながら行うチャットアプリは、どうしても会話が続かなくて断念した記憶がある。
結局人間は顔が大事なのだ。
そう言えば、やはりあの半島はかなり的を得ているのだろう。人口のほぼ全てが整形をして元の顔がわからない程度には、それが一般化している。
こっちの世界ではどうなんだろう。
しかし、全裸集落を見る限り、そんなに文明は発展していないんだろう。
というか、そう言った異世界小説は、中世ぐらいの文明に転生するし。有名な少年雑誌は、誰もいない世界にタイムスリップしたかと思ば、結構言えば伝わる人間がたくさんいて超文明を発展させているし。
それに比べてここはどうだ。
本当に狩をして生活するような集落文明しかなかったらどうするべきなのだろうか?
いいや。
俺が、世界を作るのではなかったのか?
どうして、こんなに周りに流されていたのだろうか。
人に合わせないくていい。
果ては自分がこっちに呼び出した人間に主導権を奪われて。
この世界は俺のものなのに。
俺が中心で世界が動いているはずなのに。
吉沢にもそのほかのゼミ員にも俺が有能であることを証明するのだと。
しかし、先に魔法なんてものを使われてしまったし。そのやり方というか、方法が全くわからないし。
どうしたものか。
ここは俺が思ったような世界。俺が管理することができる世界だったのなら。
管理者権限のコンソールとか、出ないものか。
「なんだ。メニューもステータス画面も出ないのか」
口に出してしまっていた。
結局、俺は世界の端っこで動く人間を見ているだけの小心者だったということか。
こんな異世界にまでやってきて、何をしているんだろうか。
「ご、ごめんよ。
管理者権限というか、世界管理画面ってのは私が持っているんだ」
「せ、先輩?」
立ち直ったんですか? なんて聞こうにも、それはやめておいた方がいいだろう。
「なんで」
「変なアイデアをそのまま実行してしまったら世界がおかしくなってしまいそうだから、一旦私を挟んで、いい感じの管理方法を提案してねって感じらしい。
承認するかしないかは、私が納得したかしないからしいから、結局私にも自由にできないんだけどね」
「あーあ。
何回世界とか楽しそうとか思ったけど、見当違いだったわ。」
「なんで?」
「俺がやりたいことができない」
「それはやってないからでは?」
「やる前からわかってるんですよ。俺は天才だから」
「そんなことはない。
やってみないとわからない。失敗することが成功したり、成功すると思っていたもんが失敗したりな、結構やってみないとわからないことがたくさんあるんだ」
急に男性の声がした。
彼は、今まで一言も喋っていない人、泰臣先輩だった。ほのか先輩と並んであの事件にかなり関わっていたらしい人物。それに、「ヨシノ先輩」とも友達の1人。
「俺と同学年、今はもう下になってしまったが、馬鹿な奴がいてな。
いろいろと下準備をしていたんだが、失敗してな。全てがおじゃんになったことがある。損失額は、多分都心に一軒家を立てることができるくらいの金額だったんだが」
「そんな額を動かしたことがあるんですか?」
「まぁ昔な。それだけかければ何かしら成功するだろとも思っていた。
だがな、結局あいつはやらなかった。
やるだけで、また世界は変わっていただろうがな。
まぁ、お前さんには関係ないことだろうが、
結局な、やるかやらないかで世界が変わるんだ。
1人で考えるだけが世界じゃない。つながってこその世界だぞ」
「そうは言ってもですね」
「この子、友達もいないという」
先輩が馬鹿にしたように俺を指差す。
「あー。まずは友達を作るところからだな。
ヨシノはダメなのか?」
「私は、今まで名前すら知らなかったみたい」
「ヨシノが口を開けば、お前のことばかりだったが。思いは一方通行か。
言葉にしない、行動しないとはまさにこういうことだな」
「ところで、先輩は俺の名前を知ってるんですか?」
疑問を口に出してみた。
行動とはこういうことだった。
「え? あ。そう言えば考えたことなかったかも」
そうして、記憶はつながった。
先輩は俺の名前を知らなかったから、呼んだことがなかったのだ。
この4年以上もの間。
お互いの名前すら知らない他人同士だったわけだ。
知り合い以上、他人未満。
なんだこの関係は。
「よし、突撃だーーーー」
全ての服をその場に脱ぎ散らかして全裸集落へと突進する吉沢たちをみて。
「あれって本当に、集落なのかな?」
ほのか先輩はそう言った。
「ほらあれみてよ」
指差す方には、暗くてわからないが、確かにかなり高い壁のような
人工物が聳え立っているのが見えた。
「ここは、何かの儀式の場ってか?」
「だって全裸だよ?
周りの家とか、髪飾りとか結構目立つけど、あんなに細かい作業ができる人たちがずっとはだかんぼなわけないでしょ?」
ほのか先輩の「裸」という言葉にどきりとした。別の意味で体を震わせるキタミレナは、より一層近くにいたヨシノ先輩の方へと身を隠した。
「それも、そうだな。
何か違和感があると言われればそうだ。
異世界だからと少し何も考えていなかったようだな」
「彼方ちゃんがいないから、こっちの世界はかなり安全だよね!」
「ああ。そうだ。もう追われることはないからな」
2人でしかわからない話をしている。
「そう。彼方ちゃんってのが、私の姉で。
その関係で泰臣くんとほのかちゃんとは知り合っただけだから」
「そうか。
純粋な友達ではなかったわけだな。
やっぱり俺以下だったんですよ、先輩」
「その俺以下ってのが少し気になるけど。
でも君には友達がいないじゃないか。純粋でもそうじゃなくても、友達は友達だ。
数にカウントできるんだよ? 君はゼロだ。
何か反論があるかい?」
「が、がめーー「それはダメだ。画面の向こうには私には10万のフォロワーがいるからな」」
「う、そ。だろ?」
「君が自慢するから黙っていたが、
私の趣味は裁縫でね、結構衣装を作るんだ。
それが評判でね。かなり売れるんだよ?」
「ま、まさか。先輩がそんなことをしているなんて」
「これでも私より上で居る気かい?
少しでも悪いと思ったら、
な、なななな名前を、教えてくれないか?」
「複雑ですが、仕方がないですね。
本当に不本意ながら、俺の名前を教えましょう。
あ「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」
全裸集落へ向かった吉沢の叫び声がする。
絶叫に近いような、絶体絶命の断末魔のようだった。
「何があった!?」
そちらを見て後悔した。
誰も、見たくなかった。
かなりいい歳したおっさんが跨られている光景なんて。
全裸集落で、男は女とつながっていた。
誰1人、例外なく。
それは儀式のようだった。
集落の中心の組み木の火は高く燃え上がる。
踊り、荒れ狂う。
周囲の行為に当てられるように。
この世界に、魔法が本当にあるのだとすれば。
こんな儀式も何かの魔法の一つだと考えることができはしないか?
空へと登っていく炎は生き物のように。
龍のように波を立てて空に広がっていく。
そして世界は昼になった。
明るい世界。俺たちを照らす。
暗くて見えなかった集落の向こう側の人工物が見える。
頂上が見えないほどに高い、黒い壁。
それが、世界を分断しているように見えた。
炎の龍はその体の全てを日取るにまとめ、灼熱の炎の塊としてその壁へと突っ込んだ。
轟音。爆音。その周囲は、その熱で燃え、枯れ、死の大地へと変貌した。
吉沢たちは、全裸集落の人間ともどもその場で動かなくなって地面へ倒れた。
遠くから見ていた俺たちは、そこへ向かわざるを得なくなった。
ほのか先輩とキタミレナはここに置いておきたいが、逆に女性2人になる方が危ないだろう。
仕方がないが、一緒に行くことになった。
そう言えば、ここにもう1人いたことを思い出した。
「三好。いつまで拗ねてるんだ?」
「だって、センパイの」
「それは、言わなくていい。
知ってるのは俺たちだけだ」
なんて言葉が聞こえるが。
俺にどうせ何もわからないのだ。
とりあえず、早めに教授たちを助けに行く方がいいだろうと。
行動を開始した。
厨二病の俺が異世界に行っても理解できない世界 藤乃宮遊 @Fuji_yuu
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