第2話 世界とは
世界を世界たらしめんとしているのは、結局のところ人間である。
人間がそこにいるかいないかを、小さな人間たちは、「世界」という言葉に当てはめている。それが、何を意味しているのかと言えば。
「教授。早いですって。一体何歳なんですか?」
「異世界特典だよ。
そう。これは別世界に来たから私の肉体がめっちゃ若くなってしまったのだよ」
「そうですか? あんまり変わっていないように見えるんですがね」
「そうでもないさ。
確かに、膝の痛みや腹の肉がなくなっている。
多分20年くらい若返った気がするよ」
「それでその見た目って、確かに結婚できないのも納得しますね」
オグリが言うと、獣道をすすむ一行が「もうダメだ」と弱音を吐く。
森の中に入って早2時間はたっただろう。センパイが持っている太陽電池の時計がそう言っている。
だが、電波時計が自慢なんだと語っていた先輩の時計も、受信する電波がこのせかいにないからただの時計である。もしここが日本と同じような日出の時間、日の入の時間でなければ、本当に何時間経過したか程度にしか役に立たない代物に化す。
この世界に来て、順応するのは早かった。
俺がこの世界を望んだのだろうと言うことは、先輩と話してそれはわかった。
吉沢教授とそのご一行が地球ではない異世界に転移してしまったのは、それも俺のせいであるのは紛れもない事実で、それは早速怪我をしてしまったキャンベルくん(留学生その1)が証明していた。
傷口から緑の血が流れていた。「本当の血はちゃんと赤いんだ!!」と叫ぶキャンベルくんだったが、その傷口からどんどんいろいろなものが溢れてきて、結局ミヤザワと言うリア獣が持っていたライターで傷口を燃やして止血はできた。
そうして、一旦は落ち着いたキャンベルくんだったが、いつの間にか着ていた服を全て脱ぎ捨てて何処かへと走り去ってしまったのだ。
その服はリア獣のミヤザワが継承してた。
当のミヤザワという人間は、俺がせっせとレポートを書いていたあの夕方の時間に、自分のアパートに彼女でもない女を連れてせっせと小作りに勤しんでいたらしい。
一緒に転移してきたキタミレナと一緒に一糸纏わぬ姿で、しかも結合していたので、吉沢教授がかなり興奮していたのを覚えている。
かなりスマホで撮影していたような気がする。
キタミは、突然知らない場所で全裸を不特定多数に見られてしまったということで、精神を病んでしまった。だが、そんな状況も許してくれないのがこの異世界というので。
今のキャンベル探しを手伝わされるハメになる。
ハメてただけに、ってか。おもしろ。
先輩の友達の泰臣先輩とほのか先輩も一緒にいたのが一番驚いた。
まさか、あの事件で一躍有名になったかの2人の先輩と、この留年がかかったアホな先輩が知り合いだったとは思わなかったのだ。
というか、先輩に友達がいたことに驚いた。
俺にだって友達がいないのに。
どうして、それ以下の先輩に友達がいないければならないのだろうか。
まぁ、そんなことはさておきだ。
20歳くらい若くなった吉沢教授を含めて、この異世界に来た人間を紹介だけしておこう。
まず俺。先輩。吉沢教授。ミヤザワ。オグリ。キャンベル。トリスタン(留学生その2)。下川。ミヤシタ。キタミレナ。三好。泰臣先輩。ほのか先輩。
の13人。そのうち、キャンベルがいなくなったので、12人体制で彼を探していた。
「教授。何か、アウトドアの経験とかあるんですか?」
ミヤシタがきいた。
「いや、別に」
スッと答えた彼は、自信満々だった。一番年長で、一番しっかりとしていない存在がこんなに適当でいいのだろうか。
誰も気にしていないけれど。
「レナちゃん。足元気をつけてね。さすがに、私も靴までは貸せないよ」
ほのか先輩が、全裸のキタミレナに上着をかして、先輩も上着を貸した。
キタミレナは、今やパーカーとジャケットをそれぞれ上半身と下半身に纏っている状態だ。その下に下着はつけていないだろう。大きさが合わないだろう。
先輩もほのか先輩もそうでもないからだ。
一番脂肪が多いのはキタミレナだった。
顔も整っていることから、男どもの見る目がかなり変態じみている。
俺は特にどうとも思わない。画面の前にいる交尾人間たちを見ている方がはるかに精神的に安定する。こう言った、結局一般人という類の人間がリアルで交わっているのを見ると、なんか、こう、違うというか。燃えないというかね。
確かに、ほのか先輩が目の前で脱いだら興奮するかもしれない。かなり好みだから。しかし、先輩がーーーまぁそんな話は今回は置いておこう。
獣道を通るから、結局地面は枝や根っこが飛び出したり、小石や、果ては何か生物の骨などもたくさん散らばっているのだ。
そんな道を靴下を履いているとは言え、ほとんど裸足のような状態で走ることはできないと思った。
全裸になった、キャンベルくんは、また別の話ではあるが。
「教授。どうしますか? 日が暮れてきましたけど」
先輩の時計の時間は7時。日本と比べてもあまり大差ないような時間に日がくれる。日本では確かに夏だったはずだ。何日も観察して、温度なども記録しながら今がどんな気候なのかなどは調べないといけないだろう。
この世界で一番はしゃいでいるのがいちばんの年長者であるので、俺たちがしっかりとしないといけない。
「というかね、吉沢教授ってあん何だったっけ?」
「こっちくる前からこんな感じだよ。頭おかしいんだよ。
俺のレポートも「興味深いねぇ」なんて言って読んでくれる」
「あの怪文書をかい? それはすごい。とてもじゃないが知り合いには欲しくないね」
「俺とは知り合いでは?」
「うーん。君とは腐れ縁というかね。
誰かが面倒みないとのたれ死んでそうだから、私が面倒を見てあげているというかね。まぁ、知り合いかもしれない」
「そうですか。先輩はぼっちだから、俺に依存してくれているのかと思っていたんですが」
「なんでさ。逆じゃないか?
私以外喋る人なんていないんだろう?」
「まぁ、画面の向こうに入るというか」
「こっちにはいないんだろう」
「何すか。まじで精神的に攻撃して。
この世界は俺を中心に回ってるんですからね」
「そんなことはない」
いつものごとく、先輩と会話をしていたら、それを遠くから見ていたほのか先輩が
「ヨシノちゃん、楽しそう」
なんて言って笑っていた。
「えっと」
それが聞こえていた俺は、ほのか先輩に質問をした。
「ヨシノちゃんって、誰ですか?」
その瞬間、先輩が膝から崩れ落ちた。
その光景を見て、ああ。先輩の名前、今まで知らなかったなと思い出した。
知り合って4年は経っているのに。
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