今度こそヒーロー

夏伐

今度こそヒーロー

 俺は必死に勉強していた。


 地元で底辺の工業高校に通っていた。


 進学するやつもそこそこいたが、工業系の大学に進学するのがほとんどだ。そしてほとんどが学校推薦で進学する。真面目に勉強するのは本当に一握りだ。


 俺はその一握りになるべく必死に予備校にも通い、余暇は全て好きでもない勉強に励んでいた。


 どうしてそこまで必死になるのか。


 実はこの工業高校には一人、伝説となっている人物がいる。


 十年ほど前に卒業した女子生徒だ。

 彼女はとても優秀で、かの有名なMARCH(マーチ)に滑り止めで受験し、軽く合格した。結局、海外の有名大学に進んだ。


 そして彼女は伝説となった。


 進学を目指す生徒にとっては伝説のヒーローだ。


 問題は、その彼女が年の離れた俺の姉だということだ。


 そのせいで俺は次のヒーローになることを期待されていた。


「部活には出るんだろ」


 必死になって勉強をする俺を心配して、クラスメイトが言った。食事すら勉強の時間と化している俺にとっては部活だけが唯一のオアシスだ。


「あたりまえだろ」


 隈が濃くなった顔でクラスメイトを見ると、


「――部活休んで、睡眠でもとったらどうなんだ?」


 と呆れられてしまった。


「時間が空いたらその分、俺は勉強しなきゃいけないからな」


「優秀な姉を持つと苦労するな」


 俺は運動着に着替えてグラウンドへ向かった。ただ走る。勉強も何もない唯一の時間だった。


 無心で走っていると、陸上部の顧問が俺を呼び出した。


「なぁ……スポーツ推薦を考えてみないか?」


「スポーツ推薦ですか?」


「正直、見ていられないんだ」


 顧問が俺を哀れそうに見つめる。


「一年目、素行も悪くなく授業態度も悪くない。なのに赤点スレスレで留年しかけたお前はお姉さんのような秀才にはなれないよ……」


「分かってます……でも、俺は……、やるしかないんです……」


「とりあえず、受けるだけ受けてみないか……? テストで頑張っても平均点しか取れてないだろ」


 俺は力なく頷いた。

 確かに姉を追いかける道は無謀なのかもしれない。




 その年、駅伝でいつも上位入賞するような学校に入学した生徒がいた。


 彼はスポーツ推薦を狙う生徒たちのヒーローになった。


 そして数か月で、赤点からクラス平均点へと、成績を底上げをした生徒としても赤点脱出を目論む生徒たちを励ます存在として講師陣に語り継がれることとなる。

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