第2話

「こんにちは、コサカ薬局でーす」

 元気に扉を抜けると、患者さんが一人。

 佐々木のおばあさんだ。

「あら、コサカのおにいさん、どうしたの‥これから行くとこだったのに」

 そうだよね、ありがたいです。皆さまのお役にたてる薬局でありたいです。でもな、何を運んできたなんて言えないよな。

「届けもんなんです、薬です」

 と嘘でもないことを言わせてもらった。

 医療機関のスタッフの方が僕に診察室に来るよう手招きしてくれた。

 医師、看護師、スタッフが集まった。そりゃあね、最初は興味がある。

 ドクターがつぶやいた。

「でかいな‥」

 みんな同じ感想だよね。

 僕はそのでかい発泡スチロールを持ったまま、買い物バッグから注射キットを出した。

「まずは、キットです。あとこのでかい中にアンプルが入ってます‥」

 僕はゆっくりと発泡スチロールを床におろした。

「ここで初めて、これ開けます。テープで目張りされているでしょ」

 僕はテープを剥がし、きつくはいった大きい蓋をあけた。

 さらに中蓋。

 さらに白い大きいドライアイス。

 研修どおりだね。

 ここで軍手が役にたつ。軍手をはめてそれをよける。

 その下から医療機関名が記載された緩衝剤。緩衝剤はサンドイッチ状になっており間にアンプルが挟まれているはず。

 僕はそれを慎重に持ち上げ、医師、スタッフの前に開いてみせた。

 1本のちいさい容器、まさに目薬くらいだ。

 すぐにそれを閉じて、医師にお渡しする。医療機関名もお互い確認してね。

「冷蔵庫にお願いします」

「うん‥」

 そのまま持っていかれ、冷蔵庫にしまっている。

「このスポンジというか、この挟んでいるやつは次回返せばいいかな‥」

「お願いします」

 ワクチンは冷凍で何日、冷蔵で何日まで保管できると決まっている。冷凍の場合には解凍方法まで決まっている。

「大変だね‥これは。毎回届けるんだ‥」

 見た目にはね、重いように見えるんだろうな‥。

「ええ、月曜日と木曜日の週2回、薬局に届けられるようになってます」

 僕は書類を用意した。

 ひとつはロット番号などが入ったドクターに渡す用紙。

 あとはこちらで受領印をもらう用紙。配達日と当然時間まで記入するようになっている。勿論、ロット番号も控える。

「うちの担当は六軒です。一番遠くて川端先生のところですから、そうでもないです。ですがおそらく多いほうです。薬局の社長、以前は薬剤師会の会長でしたから‥」

 薬局から1キロくらいかな、川端先生のところは。

 車でもいいけれど、駐車禁止とられないけれど、道幅狭いしな、今日の配達はないからね、だけど行くときは徒歩で行こう。

「大変だね‥」

 ドクター、本当にそう思っていただいているようだ。

「ええ、約一年続くと言われましたので、よろしくお願いします」

 次の配達があるからね。

 印を頂いて忘れ物がないか確認して退出する。

 佐々木さん、まだ待っている。診察、待たせちゃったかな。

「それじゃあ、佐々木さん」

「大変ね、おにいさんも‥」

 会釈してクリニックを出る。薬品メーカーの営業みたいだな。

 今日はあともう一軒、古川先生のところだね。


「なんだ、大きいな‥」

 どちらのドクターも同じ感想だ。

「でも、アンプル1本だけだよな‥」

 同じように蓋を開け、中蓋を開け、ドライアイスをどかし、緩衝剤をお渡しする。

「すごいな、ドライアイス上下に二つか‥」

「ええ、ほどんどドライアイスの重さしかないんです、この箱」

 緩衝剤が抜けたでかい箱は、すかすかだね。

「でも、この容器に入れて蓋を密閉しておくと二十四時間たってもドライアイス一割くらいしか減らないそうですよ」

 僕は蓋を閉め、さらにいろいろと用紙やキットの用意をしながら言った。

「といっても、薬局に届けられたその日にちゃんと配送しますので、よろしくお願いします」

 印をもらい、時間を書き失礼する。

 今日の配送は終わりだね。


 外に出ると春だけど涼しい風が吹いていて、緊張なのかな、重労働でもないのに汗をかいた僕には心地よかった。

 大きい荷物を持ち、また公園の脇を抜けていくと、子供達はあいかわらず遊んでいる。

“おじさん、ひとつ仕事終えたよ。こんなおじさんだけど、少しは地域に役立っているんだよ”

 まあ、少しですが。


 最初に薬剤師会で

「五十二週の予定です」

 と言われた時に

“そんなに長いの‥”

 と感じたが、医療機関に勤めているのに認識が甘かったと正直に思ってます。

 長い戦いの反撃がね、今始まったんです。

                                     了

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大きい荷物 @J2130

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