和歌山、友ヶ島での旅。②

 友ヶ島へ向かう電車内で僕は、何故に初一人旅の目的地を友ヶ島に決めたか考えていた。


 確か、大学の文学部に入学したにも関わらず、小説を全く書けなかったので、自分にとって自己表現とは何か、自分は何故に文学部へ入学したか、真の芸術とは何か、ということを海でも一週間くらい見て考えよう、そうすれば何か答えが見つかるかも、と思って一人旅へ行ったのだった。  



 海を見て創作活動をしようと思ったので、僕は宿予約なんてしなかった。また、夏だったら野宿でも寒くないだろう、と思ったのも宿を予約しなかった理由の一つだったと思う。


 結果、滞在一日目にして僕は困惑していた。まず無人島である友ヶ島は、夜になると真っ暗で、海風の影響により寒くて、作品創作どころじゃなかったということだった。それに友ヶ島には、鹿とDQNが出没するということを僕は知らなかった。




 DQN出没事件と鹿襲撃事件は深夜に起こった。

 僕は島内にある山頂にブルーシートを敷いて、携帯のライトを頼りに、平山夢明の怖い人を読んでいた。(無人島で怖い本なんて読むんじゃねえー)

 すると暗闇の向こうから、ヒップホップと、大きな笑い声が聞こえてきた。


「こんな所にお化けなんておりまへんがな」



「いや、俺はおる思うで」



「「「ウェイ、ウェイ、ウェイ、ウェイ、ウェイ、yeah!!」」」



 大体こんな会話だった。どうやら肝試しをしていたようだった。

「うわ、やばい! DQN怖いけど、野宿を見られたら恥ずかしいな、ホームレス大学生とか言われそう」

 そんなことを思い、僕は山頂にあった大きな岩の影に隠れた。

 DQNはどんどん近づいてきた。ルックスはEXILEにいそうな感じだった。その時、僕は足元にあった木の枝を踏んでしまった。



「うわ、何や、あの音! ここの島は無人島とか聞いてたのに、ホームレス住んでたんか」

「ひょっとしたら、幽霊なんじゃ……」

 そんなことを話しDQNは去っていった。しかし、安心していると、次は鹿が現れて、僕が寝転んでいたシーツに上ってきたのだ。




 友ヶ島で、ポンコツ学生VS鹿のバトルが勃発! 

 それは猪木VSアリ戦以来の興奮!

 睨む攻撃!

 その瞬間、鹿は去って行った。




 激闘を終えた僕は寝て、翌朝に大阪へ帰った。何故だか自分には何でも出来る気がした。絶対にいい作品を書いてやる、誰も書いたことのないようなスゲー作品を書いてセンセーションをウンタラカンタラ……。


 そんなことを考えながら帰宅して、作品を書こうと机に向かった。だが結局、作品案は全く浮かばなかった。

 学んだことといえば、夏でも海沿いで野宿したら、寒いということだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分殺しの旅(カクヨム版) 持野キナ子 @Rockhirochan1206

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説