恋のお天気雨

夏伐

恋のお天気雨

 私はその日、とても晴れていたけれど傘を持っていくことにした。


 軽い頭痛がするからだ。


 私は片頭痛持ちで、天気が悪いと頭が痛くなってしまう。曇りではもやもやした感じであまり良い考えが浮かばなくなってしまう。


「水島、今日は雨が降るのか?」


 隣の席の小川が、私の荷物を指さして聞いた。そこには一本の傘がある。


「お天気レーダーはそう言ってる」


 頭をコツコツと人差し指で叩いて、おちゃらけて答える。


「水島の天気予報めっちゃ当たるからなぁ」


 微笑む小川に、私は顔が熱くなるのを感じた。

 赤くなってはいないだろうか、照れつつも小川にバレないようにそっぽを向く。


 私の予想通り、帰りは雨が降った。天気予報は晴れだったのに、とクラスメイト達はぼやいていた。

 小川と私は顔を見合わせた。目が合って、どちらからともなく笑みがこぼれる。


「なぁ水島、駅まで行くだろ。ちょっと傘に入れてくれよ」


「いいよ。そっちの方が背が高いんだから傘は小川が持ってよね」


 私は傘を押し付けるように小川に渡した。

 こういう日のいつものやり取りだ。


 帰り道、私は傘からはみ出て濡れた肩が気になった。


「あ、ごめん、俺のせいで」


 小川はそう謝った。心底、申し訳なさそうな顔をしている。


 私は小川を見つめた。


 高校三年、何となくの腐れ縁で同じクラス。よく隣の席になった。


 進路は別々。私は電車で数駅先の短大、小川は隣の県に引っ越して四年制大学一人暮らしい。

 今日は天気が悪くなる方に賭けていた。


「いいよ、私折り畳み傘持ってるし」


 私は鞄から小さな傘を取り出した。

 小川によく見えるように顔の横まで持っていって、悪戯っぽく……笑えただろうか。

 正直すごく恥ずかしい。


「え? ――あ、」


 彼は少し考えて、遠回しな私の言葉の意図に気づいたようであった。


 見る間に小川の顔が朱に染まる。


 私はその反応を見て、折り畳み傘を鞄にしまい込んだ。


 お互い、普段と違いバカ話をすることなく顔を背けて歩く。


 駅までの道のりが、いつもよりずっと早く感じられた。

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