春のある日、仕事に追われる若き官吏、紀広足は野原で心惹かれる乙女に出会います。そして、歌をーー。風景、音、味、匂い、触れた感触万葉の世界を五感で感じさせてくれる、美しい文章に引き込まれ、すっかり虜になってしまいました。恋物語らしい、「きゅん」もしっかり味わえる贅沢な物語✨皆さまに読んで頂きたいですが、古典好きさんには超オススメです。
丁寧な万葉歌の言葉選びと古式ゆかしい調べの良さと対比しつつ、登場人物の生き生きとしたフレッシュ感が、実に色鮮やかです。現実は甘くないけれど、人生は甘々といった若々しい男女の出会いに始まり、しっかり地に足のついた現実味がバランスよく、現代にも通じるヒューマニズムがありありと伝わる作品だと思います。作中で表現する「春」に、桜や菜の花ではなく、カタクリを持ってくるところにも好感が持てます。