第6話 なんだか慌てちゃってぇ
交番はそんなにも遠くないから実はものの5分10分だったかもしれない。
だけどおなかを突き出した小太りの巡査さんとそのあとを若い巡査さんが走ってやってきたのは相当待った後に感じられた。
それでもおじさんは戻ってこない。
ようやくおじさんが遠くのほうでポツンと見えた。
心底疲れ果てたけど、でもホッとしましたという安どの表情を浮かべて、とぼとぼのぉんびりと戻ってきた。
結局ひさこはかなり長い間戻ってくるおじさんを目で追うことになった。
おじさんが戻ってきてようやくはっと我に帰ったひさこは、「雑誌を買いに来た」という当初の目的を思い出して握りしめた小銭に目をやった。
そして「最新号1冊お願いします」と手の中で完全に暖かくなったお金を差し出した。
「おじさんカバンおいて行っちゃうから心配しちゃった」と言ったら、おじさんは「なんだか慌てちゃってぇ」と照れ臭そうに笑いながらトートバッグの中をごそごそした。
そしておもむろにお札の入った古い封筒と小銭がきれいに並べられたケースを取り出した。
びっくりして「え?お金も置いて行っちゃってたのぉ?」というと「なんだか慌てちゃってぇ」とまた笑った。
最後に「おつかれさまです!」を言い交わして家路に戻るひさこのカバンの中の雑誌には、おじさんのやさしさがギュッと凝縮されているような気がした。
赤いトートバッグ ただの、いちどくしゃ @junjunjunjun
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