第5話 赤いトートバッグ

女の人にはすでに道行く人が何人か介抱しているし、おじさんがお巡りさんを呼びに行ったからもう大丈夫だろう。

本当は雑誌を買うつもりだったけどおじさん行っちゃったし、ひさこも家に帰ったら帰ったで何かと用事がある。

別に今日買わなきゃいけないわけでもないし、今日はこのまま帰ろうかなと思ってふと植え込みに目をやったとき、よれよれのトートバッグが目に入った。

きっと元は赤だったんだろうけどあまりに年季が入っていてほとんど識別不可能なよれよれのトートバッグ。

近づいてみると何冊かのフィルムでラッピングされた雑誌がのぞいている。

あ、おじさん商売道具、置いて行っちゃったんだ。

しょうがないなぁ…と思いながらも心配だからその場を離れられなくなってしまった。

ほら家に帰ったらあれもこれもしなきゃいけないのに、困っちゃうなぁ。

でも帰っちゃってだれか心無い人がふっとトートバッグを持っていったら…と思うとぞーっとしちゃうんだもの。

ひさこは大きくため息をついた。

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