エピローグ

「本当に、辞める気なのね⋯⋯」

「はい。これまで本当にお世話になりました」

「『トラ息子としてダーティダービーの頂点を目指す』って? そんな寝惚けた夢を現実に聞くことがあるのねー⋯⋯」


 雇用主の溜息が事務所を満たす。

 死力を尽くしたレースの後、トラ男は元の世界に戻された。依頼人が謎の死を遂げたせいで成功報酬は発生しなかった。

 自分の奥義に数合わせで巻き込んだ自業自得であるのだが、そんなことはわざわざ明かさずに殊勝な態度を取るトラ男。無駄に食った歳で世渡りがうまくなっていた。


「貴方の歳でトップを取るのは厳しいんじゃない⋯⋯⋯⋯?」

「でしょうね」


 引き止めたい意図が見え隠れする薄っぺらい言葉。ババァの占いを思い出して、トラ男は鼻で笑った。


「厳しいかどうかは、やらない理由にはならないでしょう?」


 言うと、流石に観念したか雇用主は机に突っ伏した。登録派遣が一人減ると査定に響くらしい。二人の間柄はそれくらい薄っぺらいものだった。


「ああーーーもう、いい! いいって! その代わり頑張りなさい!」


 と、思いきや。


「今の貴方は目が輝いてるわ。まぁ、現実は非情でもうまくやれるでしょう!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「ほら、これは餞別よ。今までお互い世話になったわね」

「⋯⋯あ、いぇ、こちらこそ⋯⋯⋯⋯」


 渡される封筒にはそこそこの厚さ。餞別と一言にまとめるには重みが違う。


「どうせ入り用になるでしょう? 今までしてた分、半分返すからうまくやんなさい!!」

「ありが⋯⋯ぁあ?」


 最後なので、遠慮なくぶっ飛ばした。























<ちゃーちゃちゃーちゃららら〜♪


<ちゃちゃちゃちゃ〜ちゃららちゃ〜♪


<ちゃーちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃちゃちゃちゃ〜♪



 高らかなファンファーレが鳴り響く。手足の関節を解きほぐす大男の姿がそこにはあった。


『さあさあやってきました! 今年もメイクデビュー戦です! 新進気鋭の新人トラ息子たちが勢揃い!』


 夢の晴れ舞台へ。


『期待の一番人気、トラックテイオー――――――⋯⋯⋯⋯』





『トラ息子☆ダーティダービー』編に続――――かないッ!!


終わりッ!!

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【ダイスロール・アドベンチャー30】異世界トラック運送トラ男 ビト @bito

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