第12話




 夜会の翌日、ロッドは領地へ戻っていってしまいました。また学園が休みに入って領地へ戻るまでは会えません。

 でも、学園を卒業すれば結婚してずっと一緒にいられますから平気です。

 ロッドの作ったワインの評判は上々で、学園ではいろんな方から声をかけられました。「素敵な婚約者で羨ましい」とも言われましたわ。


 公爵様からは正式に謝罪とお詫びの品が届けられました。

 隣国へも公爵様が説明とお詫びを送られるということで、我が家は一切関わらなくていいとのことです。


 今回、公爵夫人がしでかしたことについてはお優しい公爵様もさすがに見過ごせなかったらしく、公爵夫人は離縁されご実家の伯爵家へ戻られました。

 公爵様と義弟である伯爵様がご相談の上で、夫人は伯爵家の領地へ送られ隠棲されるそうです。


 問題を起こさずに静かに暮らすのなら、今後も生活の面倒はみるおつもりのようです。夫人の言動には誰もが迷惑しておりましたが、これまですべて未遂で実際に不幸になったご令嬢がいないため温情が与えられたそうです。


 もしも、私の時のような強引なやり方を他のご令嬢にもしていたら、決して許されなかったと思います。

 ある意味、夫人は私の婚約者が平民であったおかげで助かったともいえるのではないでしょうか。

 なんだか皮肉ですね。


 しかし、あの夫人が田舎の静かな暮らしに耐えられるでしょうか。少し心配になります。

 もしも、新たに問題を起こしたら、夫人は実家からも見捨てられてしまうかもしれません。そうなれば、夫人は救貧院に行くしかなくなります。公爵夫人として華やかに生きてこられた御方には耐えられないでしょう。

 どうか、夫人が賢明に己れをみつめなおしてくれることを祈ります。



 それにしても、公爵夫人はどうしてあんなにも他人の結婚に口を挟みたがったのでしょう。

 月下氷人がしたかっただけならそれほど嫌われなかったかもしれませんが、夫人の場合は幸せな恋人達を引き裂いてでも不幸な結婚をさせたがっているようにしか見えませんでしたから、あれほど皆から憎まれたのでしょう。

 もしも、公爵様が夫人の言いなりになるような御方でしたら、どれだけの令嬢が不幸になったかわかりません。


 穏やかでお優しい公爵様と、優秀なご令息と非の打ち所のない婚約者、公爵夫人という身分。何もかもを手にしてお幸せに過ごされていたでしょうに、どうして公爵夫人はあんなにも他人の幸せな結婚を壊そうとされていたのでしょう。

 私には、公爵夫人のお気持ちがわかりません。


 ですが、お母様はこうおっしゃいました。


「御自分が幸せであっても、他人がほんの僅かにでも幸せになるのが許せなかったのでしょうね」


 きっと自覚はしていらっしゃらなかったでしょうけれど、と、お母様は深い溜め息を吐きました。


「善意を装った悪意……いえ、本人が善意と信じているだけの善意は、悪意より恐ろしいものよ」


 お母様のその言葉は、私の胸に残りました。


 我が家はこれからお兄様の結婚にお姉様のお嫁入りと、慌ただしくなります。

 お二人の結婚式ではロッドのワインを皆様にお出しする予定です。侯爵家と辺境伯家は、私の婚約者としてロッドの出席をお許しくださいましたわ。


「うふふ」


 髪飾りを撫でて、私は笑みを漏らします。


 大好きな彼と結婚する日を想うと、まるで自分が世界で一番幸せに思えるのです。


 きっと、愛しい人と想い合う方は皆、私と同じくこう思っているのでしょう。


「私が世界一幸せよ!」と。





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