スクリーミンスクリーム
Tempp @ぷかぷか
スクリーミンスクリーム
タジローがコンビニでアイスを買った。
6本入りの箱入りスティックアイス。
2人なのにどうするの? って聞いたのに。
もう終電は終わってて、でも踏ん切りはつかなくって、家に帰れないから路上で騒いだ。
どうするのさ、溶けちゃう。
「まぁそんな細かいこと気にすんなよ」
タジローは酔っ払ってくるくると道路で踊ってる。まぁ、今は車は来てないんだけど。
ちょっと前まではまだたくさんの人が歩いていた商店街も1時半を過ぎるともうガラガラで、誰もいなくなってしまった。この世の最後に取り残された2人みたいな気分。
少し先でこの細い道がくの字に曲がるところまで、人生みたいに街灯がぽつりぽつりと等間隔で続いている。あの先に明りはあるのかな。
「1本食えよ」
そういってタジローはあたしにグレープ味を1本渡した。甘くて美味しい。
「これ、アレみたいだな」
アレ?
「そう、百物語の蝋燭みたいな」
100本もないよ。
「うん、わかってるけどなんかさ」
それって怖い話するやつ?
「そうそう、全部溶け切るまでにな」
無理じゃない? そもそも百物語って1本消したら新しく1本つけるんじゃないの? 1人1本で。
「でもここに6本ある」
まぁ、あるけど。そもそもいっぺんに100本もつけたら100話前に全部溶けちゃうよ。それとも一度に100本もあれば賑やかで楽しいのかな。ぱぁっと線香花火みたいに。
「そうかもな、でももう買っちゃったし。とっととやらないとこれ全部溶けちゃうぞ」
まあ、そうだね。これももうちょっと溶け始めてる。じゃあ、どっちから?
「お前から」
何であたし。
「溶けて無くなっちゃうんだろ?」
まあ、そうかもね。じゃあ、そうだなぁ、怖い話か。
「別に怖くなくったっていい」
怖い方が良くない?
「何で」
死にたくなくなるのかも。
「死にたくないの?」
どうかなぁ?
じゃあええと、昔々川で桃が流れてきて、割ったら中で子供が死んでました。
「ハハッ、なんだそれ、短ぇ」
短くないと溶けちゃうんだからいいじゃん。次はタジロー。
「えっとそうだな。兎と亀がかけっこして、うさぎは真面目に走って勝ったよ」
そっちこそなにそれ。変なの。夢も希望もないじゃない。
「まあ、世の中そんなもんだろ。それはそれで仕方ないし。それより早く食べないと次が始めらんない」
ええ? 続けるのこれ。
「だってまだ4本あるぜ。それに話題ないじゃん。会ったばっかだしさ」
まあねぇ、会ってまだ4時間くらいか。妙に気も合ってるけど。
仕方ないなぁ、まああと1本ならなんとか。
アイスって急いで食べると沁みるね。なんかツーンとする。
「ほら」
ううん、オレンジ味か。柑橘系は好き。ちょっと酸っぱくて。
「話も」
ん、そうだなぁ?
亀を助けたら竜宮城に連れてくって言われて、甲羅に乗ったら海に潜られて息できなくて死んじゃった。
「漁師なのに泳げねぇのか」
ううん、そうじゃなくて。浮力で浮き上がらないよう亀が足掴んでたんだよ。
「妙に現実的だな」
でもまあ実際そんなもんじゃないの? 掴まってないと潜れないけど、捕まるともがいても逃げられない。そういう。だから掴まるか捕まるか選ばないと。
「溺死は苦しそうでやだな。酸素ボンベがあるといいな」
そっか、じゃあその時は違うのにしよう。
「持ってないしな、ボンベ。とりあえず次は俺か。うーん」
ちょっと飽きた。違うのにしない?
「まあいいじゃんいいじゃん。夜歩いててさ、電信柱の影から女が出てきて、私キレイ? って聞くんだ」
うんうんそれで?
「まだそれだけだよ?」
マスク取ったりしないの?
「とりあえずスルー推奨案件じゃね? 完全に知らない人ならね」
知ってる人なら?
「とりあえず話したいなら話だけはきくかな。奇麗かどうかは別として」
それはまぁそうだろうけど。じゃあ話したくない時は?
「話さなきゃいいんじゃない? でもまあ、一緒にアイス食ったりはできるし」
まあ、全部溶けるまではね。
「そんじゃ次お前」
いや、無理無理。もう食べられないよ、頭キンキンする。まだオレンジ半分くらいしか食べれてないし。大分溶けてるけど。
「じゃあ俺が後2本食べるから、話は考えて」
えぇ~? 私が考えるの。
「いいじゃんいいじゃん」
そうだなぁ。死にたい男の人と女の人がいました。ネットで知り合って意気投合したの。
「それで?」
それだけ。
「それお話じゃなくね?」
まあ、そんなもんじゃない? 思いつかないし。
「まぁなぁ」
それよりあと1本、もう半分液状じゃないの?
「うーん、まだちょっとある」
袋が半分くらいりんご水になってるよ。あちょっと、穴開けて吸うのは行儀悪いよ。
「大丈夫、まだ残ってた。さあ、あと半分分だけ。早く話して」
強引だなぁもう。
「お前は最後、どういう話にしたいのさ」
最後、か。よくわかんなくなっちゃった。本当はね、どうでもいいんだ。
「まぁ、そうかもな。俺もどうでもいいや。それでお話」
そうだね、ええと。ある人がね、ネットで死のうかなって呟いたら、死ぬなら最後に一杯やるかってメッセが来たんだよ
「うんそれで?」
それで、ええと、どうしようかな。どうしたらいいと思う?
よくわかんないや。
「叫んでみる?」
なんで?
「アイス食ってるから。I scream, screaming ? scream」
なにそれ、バカみたい。
「バカみたいでもいいんじゃないのかな?」
そうかな。
「そう、たまには。叫んでみると、叫んで出てったところに他の何かが入ってくるかもよ」
そう、かな。
「そうそう、ほらアイス溶けちゃう。叫んで」
え、急に。
「いいからいいからほら、最後に食べちゃうぞ。ほら、その前に、本当は言いたかったこと」
うん、ええと。
『何で!? 何でなんだよ!? 何で私を置いていったんだよ!!』
そう叫んで顔を上げると、夜の冷たい空気が口の中に入り込んできた。
空には星が輝いていた。
まだ、わたしがいるのは夜だけど、
そのうち、また夜が明けて、朝がくる、のかな?
「叫んだところに何か入ってきた?」
どうかな、アイスがもう1本あればわかったかも。
「じゃぁこれやる」
棒? バカじゃないの、『あたり』とか。字が下手だね。
「次会った時に新しいのと交換するから」
次、か。そう、だね。
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