あまりに似すぎている双子なので、妹の暴挙は全部私のせいにされてしまいます。「悲劇のヒロイン気取り?被害者ぶらないでよね」

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は、双子の妹とよく似ている。

 顔のパーツ一つとっても全く違いがない。

 なので、よく人から間違われるのだ。

 それは仕方のない事だと思うけれど。


 間違えられたとしても妹が、ごく普通に日常を送っていてくれるならよかった。

 笑い話か、ちょっと苦労した話で済んだなら。

 でも、妹は普通にしていてはくれなかった。

 余りに似すぎている双子なので、妹の暴挙は全部私のせいにされてしまう。

 私はとても、その事で悩んでいた。






 今日も私は見知らぬ人間から罵声をあびせられる。


「よくも、顔をひっぱたいてくれたわね!」


「あれは大切な物だったのに、どこに隠したかいいなさいよ!」


「あんな口にするのも憚られるような悪口を言うなんて、品性がおかしいんじゃないの!」


 彼等は口々に、私が暴行を働いた、物を盗んだ、悪口を言ってくる。


 私はそれらを一つずつ丁寧に謝っていくしかなかった。


 だって「双子の妹」のせいだなんて、口が裂けても言えない。世間からみると、私に妹などいないからだ。


 妹は重い病にかかっていて、ベッドから起き上がる事ができない。


 だから、人前に出た事が無かった。


 そして私の父と母は、そんな妹の事を、誰にも知らせていない。


 なぜなら、この世界では双子は忌み嫌われる存在だからだ。






 遠い昔、神様は様々な生き物を作った。


 生き物達はみな、仲良く暮らしていたけど、その中で双子の生物だけが勝手をしてばかりだった。


 その結果、双子の生き物は神に断罪されて死んだのだという。


 本体一つとして生まれるはずだった双子は、魂のどこかが欠けているから、おかしくなる。


 そういった神話が示すのは、双子が忌むべき存在であるという点だ。


 このような話があるから、その世界では双子が生まれたら処分するのが普通だった。


 めったにない事だけれど、百年に一度あるかどうか分からないけれど、三つ子や四つ子が生まれてきた時もその通り。


 おとぎ話には出てこなかったが、魂の欠けた生き物として処分されてしまう。


 けれど「せっかく生まれてきたのに、すぐ殺されるなんてかわいそうよ」「ああ、そうだな」両親が守ってくれたから、私も妹も生きながらえる事が出来た。


 その代わり、どちらか一方しか表の世界では生きられないけれど。


 そうなると、必然的に体の弱い妹より、私が表で活動する事になる。


 でも、私は姉だから独り占めなんてしない。


「貴方の体調が良い時は、入れ替わってお外に出ししてあげるわね」


 可哀そうな妹に向けて、そう言ってあげていた。

 服を着せて髪も整えてあげて、時々外に出してあげていたのだ。


「今日は体調が良くないみたいね。だったら傍で一緒に遊びましょう」


 そして、外に出られない時は、たくさん面白い話を聞かせてあげて、楽しいおもちゃや小物をもってきてあげた。


 でも、それは妹にとって余計なお世話だったらしい。


「満足に外に出られない私を哀れんでいるんでしょう? お姉様がやる事で私はどんどん惨めになっていくわ」


 ある日から、入れ替わった妹の行動が荒れるようになった。


 物を壊したり、人に危害を加えたりする。


 私は次第に妹の入れ替わりを許可しなくなったけれど、その後も妹のそんな行動がずっと続いた。


 私に婚約者ができた時だって、私のふりをしてひどい行いをしたらしい。


 それで何もしてないのに、彼に愛想をつかれてしまいそうになっている。


「婚約を白紙に戻す事も検討しているよ」


 疲れた顔で彼がそう言ってきた事は、悲しかった。


 でも、昔の私の行動が妹を傷つけたのは事実だから、私は我慢するしかなかった。


 そうだ。


 最近町の近くに凄腕のお医者さんがやってきたと聞く。


 その人に妹の病を治せないか聞いてみる事にしよう。


 症状が軽くなれば、妹の心だって少しは穏やかになるだろう。


 もし、完回するなら、二人で一緒に外に出てみたい。


 人目は気にしなければいけないけれど、少しなら大丈夫。

 きっと一緒に楽しい思いをすれば、妹も態度を改めてくれるだろう。


 でも、その件はまだ両親には内緒にしておこう。

 ぬか喜びさせたくないから。







 僕の婚約者の様子が変だ。


 たまに意味の分からない事を叫びだしたり、意味の分からない行動をとったりする。


「お姉様なんて嫌い。大嫌い。私と同じ目に遭ってしまえばいいのよ」


「いっつも上から目線で、してあげる。やってあげる。代わってあげる。何様のつもりなの!」


「私が何度、お姉様の絵を書いた紙を引き裂いたか分かるかしら。お姉様の人形をつくっては切り裂いたか!」


 でも、その様子もなりをひそめたらしい。


 近頃は本当に穏やかな様子で笑っている事が多い。


「そういえば、知っているかい? 近くの町に凄腕の名医が来たんだってね。おかげでその人は町中の人達からひっぱりだこだったらしよ」

「まあ、そうなんですか。それはさぞかし、素晴らしいお方なんでしょうね」

「今日も機嫌良さそうだね、何か良い事があったのかい?」

「はい。ちょっとした問題が解決して。だから、嬉しくて」

「そうなんだ。良かった。僕にも相談してくれれば良かったのに」

「今度は相談しますよ、誰よりも一番最初に」


 そんな風に他愛のない会話ができるようになったのは、本当に最近の事だ。


 別れ際、彼女を玄関まで送った僕は、うっかり怪我をしてしまった。


 玄関の近くに置いてある花瓶が気になって、手を伸ばしてしまったのだ。

 その花瓶に生けている花は、婚約者の彼女が好きな花だったから、萎れかけていたのが心配だったのだ。

 きっと、今までの彼女と重ねてしまったのかもしれない。


 労るように触れた時、花の棘が皮膚を傷つけて、血が流れた。


 すると、彼女が包帯をとりだして、僕の手に巻き付けはじめた。


「ずいぶんと手当てするのに慣れているんだね」

「ええ、使う機会が多いですし、いつも持ち歩いていますから」

「君ってそんなにうっかり屋さんだったかな」

「意外と怪我をすることが多いんですよ。たまに外に出た時に、ふらっとして倒れてしまう事があるので」

「そうだったんだ、覚えておくよ」


 それはこれまでに聞いた事が無い話だった。


 婚約者の事は知っているつもりだったけれど、案外分からない事の方が多いなと思った。


 もしかしたら、最近体調がよくなかったから、荒れていたのかもしれないな。


 これからは彼女と一緒にいる時は、気を付けてあげなければ。

 

「これからもずっとよろしくお願いしますね」

「ああ、もちろんだよ」







 あの人は今は、私の婚約者だ。


 にこやかに手を振る彼と別れた私は、ドレスの裾を翻しながら、馬車に乗り屋敷に帰った。


「ただいま帰りましたわ」


 自分の部屋に戻って、ベッドに腰かけた私、久々の外出で疲れてしまったので、すぐに横になりたくなった。


 寝転がった私は、寝心地の悪いベッドに顔をしかめる。

 寝具が体に合っていないようだ。

 

 それでも疲労は、私を夢の世界へいざなったらし。


 まどろむ意識の中で私は、現実をつきつけるだけだった言葉を思い出した。


『まさか本当に病気が治るなんてね。よかった。貴方を治してあげられて。これでこれからはずっと、部屋の中でも楽しく遊べるようになるわね』


 私はその言葉の主を思い浮かべて言った。


『もうすぐ治療ね。自分の事じゃないのにどきどきするわ。治ったら何をするか、たくさん考えましょう、私も貴方にしてあげられることをたくさん考えるから』


 最後まで上から恵んでくれるだけだった人を。


 まるで全部、自分が動かしてるみたいな言動をする、あの人を。


『名医がいるっていうから、貴方に紹介してあげたいの。大丈夫口は堅いから。これで貴方が困った事をしないようにしてあげられるわ』


 ざまぁみろだ。


 どうせ内心では、私の事見下して哀れんでいるくせに。


 心の中では優越感たっぷりひたっているくせに。


 目を閉じたら、姉の幻影がより鮮明になる。


 彼女は幽霊になって、泣きながら私を責め立てていた。


『ねぇ、どうして貴方はこんな事するの? ひどいわ。私はあんなにも貴方を助けてあげたのに!』


「悲劇のヒロイン気取り? 被害者ぶらないでよね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あまりに似すぎている双子なので、妹の暴挙は全部私のせいにされてしまいます。「悲劇のヒロイン気取り?被害者ぶらないでよね」 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ