夜中にクレープを食べる理由

藤泉都理

夜中にクレープを食べる理由

 どうにもこうにも寝付けない。

 原因は明確。

 喉に小骨が突き刺さっているかのように、昼間の出来事が気になっているからだ。


 ごろん、ごろん。

 何度転がっても眠気が一切合切襲ってこないので観念して起き上がる。

 向かうは、台所。

 ホットミルクでも飲んで眠気を引きずりだす。

 わけではなく。


 クレープを作って食べる為だ。


 ツナと卵、レタスのクレープをください。

 昼間、クレープを食べようと誘われて視線は別のクレープにくぎ付けだったのに、私が頼んだのは、違うものだった。


 あざと可愛さでも狙っているの?

 その年で?

 もうそろそろ振る舞いも考えたら?


 囁く声に従って、普段飲まない珈琲まで頼んでしまった。

 緊張して、味がわからず、でも味の感想を考えなければと頭が混乱状態になって返事も曖昧なまま、遊びを再開するも盛り上がりを見せずに、解散。

 相手は卵とトリュフ、生ハム、ベビーリーフ。

 なんで値段がそう変わらないのか甚だ疑問である。






 ようやくきれいに焼けたクレープの生地の上に、昨日のケーキ作りの時に残った生クリーム、苺をまるごと三個、削ったチョコをトッピング。左右の生地を中央に折りたたんで三角の形にして、クッキングシートの上に乗せて、端を紙テープで止める。

 後片付けはしないまま、長椅子に座って、肘を長机に乗せてから、まずは、クレープの生地だけ少しかじる。

 もちもちでバターがよく効いた味に早くも相好が崩れる。

 酸っぱさが勝っている苺は、甘い生クリームといい具合に調和する苺と二段階の味を楽しめるし、あとから控えめに刻みチョコが追いかけてくるのもまたよし。

 あ~至福の時間。

 小さな天使が舞ってるわ~。




「でも、ちょっと、バターが強すぎた、かな。少し、塩味が強いかも」






 約五時間後に迎える朝食は、甘夏ジャムのミルクレープ。

 やあやあやあ。

 爽やかに過ごそうではないか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜中にクレープを食べる理由 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ