第13話 手紙
久野はよく僕に手紙をくれる。
「ラブレターです」
と言って直接渡してくる時もあれば、今日のように僕の机にメモをいくつも置いていることもある。
かわいいメモにはふんわりとした色で花が描かれている。マーガレットかガーベラのように見える。
なんとなく読まずに文字を眺めた。久野はなかなか大人っぽい字を書く。でも普段はもっと雑な字を書いていることを僕は知っている。業者のお兄さんが宅急便の伝票に書くような字だ。そして僕に手紙を書くときは綺麗に書こうと頑張っていることも僕は知っている。というか本人が言っていた。
文原先生へ
だんだんあったかくなってきていますね。最近はもはや暑いような……
文原先生へ2
最近何やら
いつまで経っても早起きが苦手です……。でも文原先生に会うために毎朝がんばってます! 愛の力ですね! 大好きです! 先生はなんとなく目覚めが良さそうな気がします。どうですか?
もう一枚は、文原先生です、と似顔絵が描いてあった。……僕も人のことは言えないけれど、白衣を着ていないと僕だとわからない。理科の先生の誰かだと言われたら、そう見える。
「……ふっ」
かわいいなぁと心底思う。素直でひたむきな姿勢は若さと共に失っていく。でも、久野は結構捻くれているところもある。それを隠そうとしているところも可愛らしい。
僕は白衣のポケットに入っているボールペンを取り出す。同じポケットの中にボールペンが三本、シャーペンが一本、クリップ、メモ帳、保健室の鍵などなどかなりの物が入っている。いくらポケットが大きめだからといって、このままだと、いつか何かを失くしそうで怖い。のに整理していない自分。ちなみに、反対側のポケットにはスマホとハンカチとティッシュが入っている。ポケットの物は主に僕しか使わないので、つい扱いが雑になる。
机の引き出しの中の付箋を四枚ちぎり、そこにボールペンを走らせた。
文原先生はわたしの手紙に必ず返事を書いてくれる。
「手紙、ありがとう」
と言って手紙を手渡ししてくれることもあれば、今日のようにわたしの書いた手紙に付箋を付けて机の上に置いてあることもある。
放課後なのに、保健室に文原先生はいなかった。どうしたんだろうと思いつつも、今は先生からの返事の方が気になる。
僕はもうそろそろ半袖に移行しようかと思ってます。でも半袖を選んだ日に限って寒いんだよね。
女の子たちはみんなおしゃれすぎて、三十路手前の僕にはわかりません。お団子、いいと思うよ。
僕は先生には先生だからこそできる助けがあると思っています。それと同じように、友達だからこそ影響を与えられることもあるんじゃないかな。僕は学生の頃、先生の話はろくに聞いていませんでした……尖ってたので……
僕も朝は苦手です。というか、時間通りに目が覚めても眠たすぎてついつい二度寝しがちです。こっちの学校に来てからは毎朝シャワーを浴びて目を覚ましてから来てます。
もう一枚は、わたしの描いた似顔絵を指す矢印に『僕はもっとイケメンです。』という言葉が添えられてあった。
反論したいところだが、その通りなのでぐうの音も出ない。実際の文原先生は比べ物にならないほどかっこいい。そんなことを考えていたら、急に少し寂しくなった。
途端、足音が聞こえた。音の主が誰かなんて、わたしにはわかりきっている。
「あ、
「ううん。なんでもないです」
やっぱり、文原先生とは直接話すのがいい。思わず顔が綻んだ。
形ある手紙は、時々怖くなる。でも。
「ねぇ、見てよこの引き出し。今までの手紙。すごい量になってるよ」
文原先生の机の中で、わたしの文字が息をしているのが嬉しくてたまらない。
「迷惑ですか?」
「いいや、嬉しいよ。いつもありがとう。あ、今日はお菓子があるよ」
「やった! お茶会しましょう!」
文原先生がお茶を淹れる。わたしはずっとそれを見ていた。
こうやって、わたしは今日という名の限りある恋を飲み干した。またお茶会しましょう、と指切りをして。
孤灯と沙穂子と保健室 終電 @syu-den
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